ラディの話2

 船のキッチンは、おそらくふたりでも作業できるよう考慮して、少し広めのカウンターで使いやすそうだった。実際は、航行中に一緒にいられる時間はあまりないだろうと思うし、船内で出来ることは限られている(材料も時間も)。

 結局、その場にある物を使って創意工夫するということなのだけど、リサはとても勘が良くて、素直で教えやすかった。


 そう言ってほめると、

「ラディさんの教え方がとても上手でわかりやすいからですよ。ちょっと自信が持てた気がします。私、直感と度胸の人なんです。理詰めで考えがちの彼とは大違い」

「だから、うまくいくんじゃないの?お互い足りない部分をサポートできるから」

 リサはふふっと笑った。

「ラディさんはもっとコワイ人だと思ってました」

「最初の印象が悪かったよね」

 それは、ふたりを祝福するパーティーでのやりとりのことだ。


「それって、僕のせいってことになるのかな」

 そのとき、港湾局に行っていたグラントが帰ってきて、そう言いながら入って来た。僕達の間の微妙な空気に、リサが間に入ってくれた。

「お帰りなさい!もうすぐできるところだから、ちょうど良かった」

 リサの笑顔に、

「ただいま」

 グラントの雰囲気が目に見えて和らいだ。

「ラディ、来てくれてありがとう。リサ、とってもいい匂いがするね」

 グラントはリサの隣に来て、肩に手をまわしてキッチンをのぞき、さりげなくふたりが一瞬、キスしているのを、僕は見てしまった。


「あのふたりはとっても仲良しだから当てられないようにね」と、ステフが言ってた意味がよくわかる気がした。


 *


 リサは、子供の頃のグラントの様子について聞きたがったので、一緒に調理しながらよく話をした。

「どんな少年だったかというとね、ひとことで言えば、『ザ・クラス委員長』かな」

「あ、それ、わかる気がします」

「でもね、リサ。グラントは君と一緒にいるようになって、ずいぶん人当たりが柔らかくなったよ。僕はよく衝突したから。それに、よく笑うようになったね」

「ステフさんも同じことを言ってました」

 リサはそう言って、微笑んだ。


 船に大きな問題はないと思われ、あとは出発の日に向けて準備を進めていくだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る