ディープの話2

 そして、当日を迎えた。


 時間ギリギリまで車内で休んでいたモーリスは、スーツに着替えると、さすがに育ちの良さを感じさせて、きちんとして見えた。

 パーティーでの主役のふたりはとても素敵だったと思う。僕達も嬉しくなって、幸せを分けてもらえた気分だった。


 モーリスは後半、さすがに疲れが見えたので、僕は聞いた。

「少し休む?」

「大丈夫だよ。良い気分だし」

 そう言って、結局、最後まで会場にいたから、モーリスの状態に気がついた人は誰もいなかったはず。

 グラント、リサ、介添役のステフとメグに挨拶して、僕達は会場をあとにした。


 エアカーに乗ったとき、モーリスが大きく息を吐いたので、僕には、彼がやっぱり無理をしていたことがわかった。

 ラディも気がついたらしく、モーリスの上着とベストを脱がして、タイを取り、シャツの胸をゆるめる。モーリスはされるがままで、もう自分では何も出来ない様子だった。

「横になる?」と、ラディは彼が少しでも楽な姿勢で休めるようにした。

「やっぱりリサは綺麗だったね」

 モーリスは微笑んでそうつぶやいて、目を閉じた。


 僕はモニターをつけて、データを確認した。僕を見ているラディの視線は、メディカルセンターへ行くのか、家へ帰るのか、どちらなのか、ということを問いかけていた。

 僕は決めた。

「それじゃ、家に帰ろうか」

 ラディはホッとチカラを抜いた表情をみせた。


 僕達はこうしてみんなでふたりを祝福することができた。


 モーリスは疲労感が大きかったけれど、目立ったデータの変化はなく、僕はひと安心した。


 その夜、モーリスが眠ったあと、僕とラディはささやかに乾杯をした。

「とりあえず無事に終わってよかったよ。お疲れ様。ディープ、明日は?」

「お疲れ様。モーリスの心配があるから、明日は半休を取ってある。体調に問題ないことを確認できたら戻るつもり」


 僕達はしばらくの間、パーティーの余韻を思い出していた。たくさんの人に将来を祝福してもらえるのは、幸せなことに違いないと思う。

 リサにとってグラントは心の中の王子様で、そんなふうにずっとひとりの人を想い続ける彼女の強さを思った。

「リサはいいコだよね…」

 僕の思わずもれたつぶやきに、ラディは小さく笑って、また同じことを言ってる、という顔をした。



 僕には遠い未来を予測することも、奇跡を起こすこともできない。

 僕達には「今」しかなくて、精一杯生きている、それだけだ。

 それでも、僕達は明日の「約束」をするのだろう。

 世界の終わりが明日来るとしても、僕達は今日も種をまくだろう。


 そこに「希望」と「祈り」がある限り。

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