第2話センパイ

出るわけないって。しかも遊園地だぜ? あんな明るいとこに出たら誰かが気づくだろ。そしたらあっ! という間にバズっちまう。

そういうのは大体やらせって決まってんの。

って思ってたのは最初の方だけだったよ。いや、ほんと。


まずな。俺はそれをバイト先の先輩に言った。

マジありえませんって~。

文字にすると草が這えるくらいのテンションで言ったわけさ。先輩はこう返してきた。

じゃあこのアプリ入れてみそ。

それがこれ、じゃじゃーん。幽霊おばけ怪奇に妖怪なんでもござれ、近づくだけで感知して音がなる。その名もあべのせいめい。いや、元ネタ絶対陰陽師の安倍晴明だよ。

先輩はこれをスマホに入れとけって言うんだ。というか、勝手に入れられてた。

その日から俺のスマホにはあべのせいめいが同居し始めたってわけ。ちなみに俺は無宗教です。


先輩からはいろんなことを教わったよ。いろいろ話した。

その人はバイト先のおばけ屋敷じゃなくって、遊園地のどっかで働いてるらしかった。結構長いっぽいから、俺みたいな新米の世話もしてくれる。

先輩の働いてる姿は見たことない。いや、何回か迷子を案内所に連れて行くのを見たかな。一応制服の上着も着てて、関係者ですって一目でわかるよ。

今度行ったら探してみ? 絶対いるから。

ああ、どこの遊園地かわかんねえか。

園内のどの人に訊いてもその人のことはすぐにわかる。あああいつか。みんなそう言うんだ。

名前は知らないけど知ってる。神出鬼没。その先輩はそういう人だった。


俺がその先輩に会うのは大体帰りだった。閉園まできっかり勤務時間に入ってるんで、門に向かい始める時にはもう真っ暗。

照明も最低限のしか着けてないからヤバい。何がって? 夜のおばけ屋敷、見たことないだろ。あれはマジでヤバい。出る出ない関係なく、ガチでヤバい。

おばけ屋敷のナイトツアーはやめとけ。ほんとやめとけ。やめてください。

で、毎回俺はやべーやべーまじでやべーとか言いながらおばけ屋敷を出て、門までビビりながら歩くわけよ。




夜の公園とか学校って一気に雰囲気変わるよな。昼間はあんなにうるさくて賑やかなのにさ、夜になるとこう、何て言うか、俺たちはお呼びでないって感じがする。

違う何かがそこにいるから、俺たちは入っちゃいけない。入れない。入ったらどうなるか、俺にはわかんねえよ。

夜出歩くのは禁止。それって多分そういうことなんだと思う。

変な人がとか事件がとかそういうんじゃなくてさ、人じゃない何かがいても夜に紛れて見えにくいんだ。猫とか狸みたいな獣でもない。何かわかんないけどさ、何かいる気配がする。あるだろ? そういうこと。

そういうのと関わっちゃいけないんだよ、きっと。きっと、な。




だから夜の遊園地も同じ。

そう教えてくれたのは件の先輩だ。




俺がおばけ屋敷の裏口から出ると、その先輩はいつも近くを彷徨いてる。ちょうどその時間はお客が残ってないかの最終見回りなんだってさ。

ついでだからって言って、先輩は俺と一緒に門まで行く。いつもだよ。そういう流れだった。

そうだよ。先輩は俺を送ってくれてたんだ。

その時間だけ、俺は先輩と話をする。今日何があった、帰ったら何をする、何が好きか、何が嫌いか、この遊園地は好きか、この遊園地の人たちは好きか。

俺はその時間が嫌いじゃなかった。夜の遊園地は怖いけど、先輩といれば大丈夫な気がした。二人だしな。安心したよ。

それにスマホの中にはあべのせいめいもいるし! ははは。

その時だよ。俺が遊園地の出るっていう噂の詳しい内容を知ったのは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る