第12話 教団専用アプリ


 竹本莉凛の説教が終わった後、自己啓発セミナーに集まったメンバーは、それぞれ今日ここに来た理由を皆の前で話し始めた。


「初めまして、水永一哉(みずなが かずや)です。19歳の大学生です。今日、僕がここに来たのは、友人の死を、いまだに受け入れられずにいるからです。僕の友人は部活動でサッカーをしている最中、突然心臓発作で亡くなりました。18歳でした。持病は持っておらず、その日も元気に動いていました。なのに、突然グラウンドで倒れ、亡くなったんです。僕はこの事実をいまだに受け入られずにいます。彼の死は、初めから運命として決まっていたのでしょうか?」


 水永の話を穏やかな表情で聞いていた莉凛は、おもむろに口を開いた。


「水永さん。あなたの友人の死は、神によって予定されていたものです。なぜなら、周りの人たちに大きな影響を与えることが、彼がこの世に生を受けた理由だったからです。現にあなたは彼の影響を受け、ここに足を運びました。そう、これこそ神があなたの友人に与えた役割だったんです。水永さん。私たちと共に多くの人を幸せにしましょう。あなたの友人の死は、そのための天命だったのですから」


「分かりました。ありがとうございます」


 水永は涙を流しながら、莉凛にお礼を言った。


「では、次の方。方丈さん、よろしくお願いします」


 片岡エイミーが方丈に発言するよう促してきた。


「あっ、はい。初めまして、方丈駿悟と申します。ビルのメンテナンスをする仕事をしています。今日ここに来たのは、今の仕事を続けることに不安を感じているからです。仕事内容に不満があるわけではないんです。ただ、この漠然と続く単調な毎日に恐怖を感じるんです。何かアドバイスを頂ければ幸いです。よろしくお願いします」


「方丈さん。今のお仕事に、ご不満はないんですよね?」


 莉凛が聞いて来た。


「はい」


「でしたら、何も迷うことなくそのまま続けてください」


「本当にそれでいいのでしょうか?」


「はい。世俗の全ての職業は、みな天職です。そして、あなたはそのお仕事をきっかけにここへ来て、神と向かい合える機会を得たではないですか。迷うことなく、今の仕事を続けてください」


 莉凛は穏やかな口調で答えた。


「分かりました。ありがとうございます」


 方丈は莉凛にお礼を言って、自分の番を終えた。




 セミナーが終わり、方丈が退出しようとすると、片岡エイミーがQRコードのついた紙を手に口を開いた。


「皆さん。この機会にぜひ、教団の専用アプリを入れてください。これを開けば教団の教えや、活動内容などをより深く知る事ができます。また、竹本さんたち御兄弟と直接コンタクトすることも可能です。ぜひ、使ってみてください」


 話を聞いて、方丈は早速エイミーの所へ行きアプリをダウンロードした。


「これでいつでも私たちと連絡がつきます。疑問に思ったこと、困ったことがございましたら、いつでもここからご連絡ください。お待ちしております」


「分かりました。では、失礼します」


 エイミーに別れを言い、方丈は喫茶店を後にした。




 仕事が終わった後、小石川倉庫に勤める下山は、上田が運転する車に乗り込み、郊外にある彼の叔父の家に向かった。


「ヒロ。本当に叔父さんの家で銃を作っても大丈夫なの?」


 下山は上田にたずねた。


「ああ、叔父さんは今入院しているから家には誰もいないし、使用許可も取ってある。問題ない」


「でも、家も車もただで借りちゃって、なんか悪くない?」


「叔父さんは俺に頼られて、むしろ喜んでいたよ」


「なら、いいんだけど」


「おっ、ここだ」


 上田はハンドルを切り、脇の小道に入った。


 するとちょっと開けた所に二階建ての家と倉庫が並んで建っていた。


 上田はその家の敷地に車を停めた。


「着いたよ、しもやん。作業場は倉庫の方ね」


「分かった」


 二人は車を降り、まっすぐ倉庫に向かっていった。


 そして入り口の鍵を開け中に入ると、そこは15畳くらいの広さがある作業場になっていた。


 中央に大きな作業台があり、壁側には金属加工ができるボール盤や万力も備えられていた。


「どう? 作業するのに、打って付けの場所だろう?」


 上田が聞いてきた。


「ああ。道具も一通り揃っているみたいだし、騒音も問題なさそうだね」


「よかった。他に何か必要なものはある?」


「まずはここにあるものを全てチェックしてからでないと分からないな」


「分かった。必要なものは全て言ってくれ。金は全て俺が出す。だから、しもやん。西原を必ず仕留めてくれ」


「ああ。必ず息の根を止めてやる」


 下山は力強く上田に言葉を返した。

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