第6話 そばにいてよ

 モナリザ

 言わずと知れた、世界でもっとも知られ、もっとも見られ、もっとも書かれ、もっとも歌われ、もっともパロディ作品が作られたと言われる、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の絵画。


 「この額縁にモナリザの絵を?」


 「そだよ。もちろん印刷したやつだけど。いくら春男が独身で資金力があるって言ってもモナリザは買えないでしょ?」


 「……あ、ああ、そうだな……」


 話の終わりオーラを全開に出し、熊本医師にプレッシャーをかけ帰宅へと誘導した後、俺とくるみはさおりさんへの今後の対応を話合っていた。


 「と、ところでモナリザをどうするんだ?」

 

 「さおりさんの病室にさり気なく設置するの。部屋の隅の壁にね」


 「なんでだ?」


 「春男は美術館とかで、絵画鑑賞した事ある?」


 俺のおフザケ心が芽生えた。


 「くるみ、バカにするなよ? 俺はこう見ても、1ヶ月に3回は絵画鑑賞に出かける。3度のメシより絵画好きなんだぞ?」


 「ふざける所じゃなくない? 春男は先月1日しか休んでないじゃん。その前は2日だけ。ちゃんと勤怠確認済みだよ。気分を害したから謝ってよ」


 「……す、すまん」

 墓穴をほったな。俺とした事が。


 「絵画鑑賞には色々な効果があるの。癒やし効果、一枚の絵をじっくり見る事で観察力が養われる、創造力やひらめき、そして自分を知る事が出来る……あ、今回は春男の出番はないから、この話はこれ以上、やめとくね」


 「…………」


 「春男はモナリザと言う絵は、描かれている女性ばかりが目に写ると思うけど、細かな背景からの光源、体全体を同じ光源から照らし出されて描かれていて、光の効果で女性の丸みを帯びた――」


「そうか! ふくよかな女性の絵を飾る事で、自分は太っていると思いこんでいるかも知れないさおりさんの、価値判断基準をさり気なく操作しようと言うのか!」


 「まあ、そんなとこかな。無意識にでも、自分とモナリザを比較して、このままじゃいけない、女性には健康的な美しさもあるって気付いてくれればいいんだけどね」


 俺も少しは鋭くなったかな?


 「それから、さおりさんはまず入院したら、脳の機能を回復させる治療から始めるよ。主に点滴とかでね」


 「どう言う事だ?」


 「医学的に拒食症患者さんの脳は、ダイエットによる食事制限で栄養が行き渡らない為に、正常な判断が出来ない状態にあるの。今の体の状態は危険だと言う事さえもね」


 「なるほど」


 「今の状態のさおりさんは判断力も低下して、精神的にも不安定な状態にあるの。そんな状態で本格的な精神療法なんて出来ないでしょ。交渉と同じだよ。でも、そっちは眠子に任せるから」


 くるみは以前の立て篭もり事件の際に、会話の継続と言う事を行い、興奮状態の犯人を落ち着かせていた。

 今回の場合は外部刺激による治療により、さおりさんの脳を回復をさせると言う事だ。

 

 「それがある程度終わったら、さおりさんと直接お話しするからね。少しは長引くかも知れないから、春男は警視総監に伝えてね。休暇も追加で。あと、ホテル側にも滞在の延長を伝えてよ。現金もおろしといてね。このホテル、paypay使えないからね」


 「え、延長?」


 「そだよ。春男は私の安全を守る義務があるんでしょ。そばにいてよ」


 「わ、わかった……対応しよう」


 現在ノベルアップ+にて「年の差恋愛短編小説コンテスト」開催中――あり得ない。



 

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