第41話 真・田辺先輩の襲来と魔法の命令

 体育館に向かう最中、風景がどんどんと様変わりしていく。

 空は黒く、稲光が走り、石畳の通路、生い茂る草木に、いびつな黒い雰囲気。

 まるでどこかのファンタジー世界で出てくる魔王城のようだ。

 体育館ももはや原型を留めておらず、半分ほど離れにある根城のようになっている。


「ほんと、どうなってんだが。まじファンタジー」


 そして、遥と連絡が取れなくなってから、妙な胸騒ぎがしていた。

 念波の意識を集中させ、遥の心を探ったが、遥の心がどんどんと黒く染まっていき、遠くに行ってしまう感じがした。

 嫌な予感しかしない。

 俺とミミは根城の前に辿り着いた。


「これ以上は先に行かせないぜ!」


 突如空から大剣が落とされ、地面が割れる。


「うわっ!」


 俺とミミは数歩さがり、前を向く。

 ドスンと根城の屋根から筋肉増強剤でも使ったのかと思うほどのムキムキの田辺先輩が降りてきた。


「田辺先輩、何やってるんですか?」


「俺は田辺じゃない。サディ様の忠実なしもべである。タナベ200%だ」


「……どうしちゃったんですか、全然面白くないですよ!」


「うるさい、だまれ! 元はと言えば、お前が俺を捻じ伏せたあの時から俺の人生は変わってしまった。泥水をすすり、苦渋に満ちた日々を送った。だがしかし! ド底辺に落ちた俺だったが、サディ様によって開発され、生まれ変わったのだ!」


「…………」


「サディ様の命だ。お前をここで殺す。そして、ご褒美をもらう! いっぱい罵ってもらって、言葉攻めしてもらって、叩いて虐めてもらうのさ。それで口枷を付けながら背中にあっつあつの蝋燭ろうそくを垂らし貰う。鞭打ちもセットでなぁ‼」


「…………」


 うわぁ……、上級者フルコースですか?

 先輩ってそっちだったのかぁ……。

 いや、人の趣味だから何にも言わないけどさ!

 だが、田辺先輩の威圧感というのは本物だ。

 腕力だけで言えば、魔法で強化された俺と同等くらいはありそうだ。

 だが、ここで時間を取っていると遥の元に辿り着くのが遅れてしまう。


「パパ、先に行くの」


 ミミが猫の姿から白銀のファンタジーフリルを着た姿に変身する。

 その手には篭手こてがつけられており、田辺先輩に向けて構えを取る。


「大丈夫か、あいつだいぶやばいぞ。パパとしては戦わせたくない」

「そんなことを言っている暇はないの! ママが危ない気がするの。だから、ここは私に任せて。大丈夫、私、実はすっごく強いの!」


 ふと、ミミが拳を突き出すと風が巻き起こり――、


「ぬあぁあああ!」


 と風圧で田辺先輩の体を吹き飛ばした。


「ね?」


 確かに、身体能力で言えば俺以上なのは間違いない。


「分かった。気をつけろ。でも、危なくなったらすぐに逃げるんだぞ?」

「うん‼ パパもママをお願いなの!」


 ミミがトントンとリズミカルに跳ねると、起き上がった田辺先輩の元に一瞬で跳び、拳を叩きつける。

 田辺先輩は大剣で受けとめた。


「くぅぅぅぅ、しびれるぅぅぅぅ! 最高ぉぉぉぉ!」


 だ、大丈夫かな……。


「パパ、行って!」


 俺は二人の横を通り、根城へ向かった。


「逃がしたか、まぁいい。……ケモ耳ロリ猫娘に虐められるのも悪くない!」


「口を塞ぐの、へんたい。パパとママの仲を邪魔する奴は私が成敗してやるから覚悟するの!」


「くぅぅぅ!!! ロリ猫の罵倒! 新たな性癖に目覚めそうだぜ‼」


 ミミはぞくりと体を震わせた瞬間、何百発に及ぶコンクリートの壁を悠々に砕く拳の弾丸を田辺先輩に食らわせていた。


 俺は根城の入口が開かったので、まだ、原型を留めていた体育館の裏口の方へ回る。


 そして、裏口へ向かっている途中、命令が下った。


【パートナーを染め上げなさい。熱々のキスで】

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