第21話 文化祭は恋愛バトルロワイアル
朝早く、お忍びで一緒に学校に登校する。
正面の校門から入ると目立つので、裏口から入った。朝が早いのは部活動の朝練をしている奴か、用務員のおじさんと少数の先生しかいないから、そこまで人目につかない。
正直な話、付き合っている宣言をしてしまいたいが、そうなったら生徒たちが暴徒化するのは眼に見えているよな。
やはり、有名人との恋愛は難しい。
俺たちは生徒会室に到着すると、刀華先輩が「うーん」と額に手をついて頭を悩ませていた。
「おー、二人ともおはよう」
「どうしたんですか?」
「うーん。来月に気乗りしないイベントがあってねぇ……」
ほいっと一枚のチラシを俺たちに見せる。
そこには清純祭のパンフレット。
通常の学校では秋にビッグイベントである文化祭がやって来るのだけど、清純学園では一学期に文化祭を行うことになっている。
さらに清純祭は外部の企業と協賛して行うことになっており、毎年学生全員参加のメインイベントがあるのだ。
去年は大手エンタメ会社と協賛して、宝探しゲームを行った。
今年は――。
「婚活会社が協賛って何やるんですか?」
「そりゃ、カップルを作りたいんだろ? 真意は分からないけどさ」
「はぁ……」
パンフの下には企画書があり、パラパラと捲ってみる。
【恋愛バトルロワイアル~第二ボタンを奪い取れ~】
ルールは簡単。
第二ボタンは一番大切な人を意味する大切なボタン。
出来ることなら誰しも大切な人にそれをプレゼントして想いを伝えたいもの。
好き合う男女が第二ボタンを交換すればカップル成立。
でも、想い人が重なったら、さーたいへん。
奪い合うしかないよね♡
恋愛バトルロワイアルしちゃいましょ?
【協賛会社
「なんですかこれはぁぁぁ⁉ 学園中が血の海の修羅場になりそうな予感しかしませんけど⁉ こんなものが企画として通るんですかぁぁぁ⁉」
「だから、私も困っているんだ。しかし、今回の協賛会社は清純学園への寄付が一番多い企業なんだ。下手に向こうの企画を折ると相手の機嫌を損ねて、寄付を打ち切る可能性がある。現に理事長に圧力をかけてきている」
「大人の事情なんですね……」
「そうだ、真っ黒い大人の事情だ。さらに、先方はイベント参加に生徒会メンバー全員の参加を義務づけている」
「えぇ……」
学園三大美女である遥、知世先輩、刀華先輩がいるのだ。
イベントの盛り上げ役としては持って来いだ。
男女問わず、死に物狂いで第二ボタンを奪いに来るだろう。
寄付停止で学園を脅し、自分たちの企画を推し進めようなんて、なんて企業だ!
だが、刀華先輩の困った表情と学園のことを考えたら、この状況、もはや参加せざるを得ないだろ。
……こんちくしょう。
「私は、景太を信じています」
遥が俺の手を取って言う。
「必ず、私のボタンを取りに来てくれますよね?」
そんなの答えは決まっている。
「当たり前だよ。一番に行く」
そう言うと遥が優しく微笑んだ。
そうだ、俺が怖気づいてしまってはいけないな。
大切な彼女を不安にさせるわけにはいかない。
何があってもあらゆる障害は捻じ伏せて、遥の元へたどり着く。
それが俺のやるべきことだ。
「まぁ、二人がボタンを交換し合って、カップル成立になれば、二人は付き合っていると皆に分からせられるわけだ。もうこそこそとイチャイチャする必要もない。まだ、詳細は送られてきていないが、我々で作戦を決めておいて二人は密かに落ち合って、ボタンを交換し恋人宣言をすれば、イベントはこなせて寄付は打ち切られないし、八代君たちは堂々と学園内で過ごせるようになるわけだ。まぁ、デメリットばかりではない」
確かにそうとも言える。
要は勝てばいいのだ。勝てば。
刀華先輩が俺たちの方を見てニヤニヤする。
「んで? いつまで手を握っているの?」
「「え、あ」」
バッと、俺と遥は手を放す。
俺たちの頬の体温が上がっていくのが分かる。
そこで、俺達は昨日の出来事を刀華先輩に伝えた。
「かぁぁぁ、出来立てほやほやのカップルは朝からお熱いですねぇ! なんか色々と悩んでいたけど二人のラブラブ具合を見ていたら、悩みがすっ飛んじゃったよ! そのまま、キスしても良かったんだよ? いや、今ここからでもしてもいいよ!」
「し、しません!」
「じゃあ、いつするの? いつも、しているの? 今日はした?」
ぐいぐいと刀華先輩が遥を責めて立てる。
「今日は……まだ。キスは……二人だけの時にしますから、見せられません」
「うんうん」
「……っ! 言わせないで下さい……、会長のバカぁ……もぅ……」
遥が急に照れた様子で口を紡ぐ。
いじられて照れる遥も、か、可愛い。
「みゃー! ママが嬉しそうなの! キスっておいしいの?」
子猫の姿のミミが嬉しそうに遥の胸元からぴょんと刀華先輩の前に出てくる。
「なるほど、これが八代君の魔法の力というわけか。いや、二人の愛の結晶か。ふふっ、妬けるねぇ」
「ミミが喋っていても驚かないの、凄いのこの人!」
「ミミ君というのか。そうだね、キスというのは甘くて口の中が蕩けてほっぺたが落ちてしまうほど美味しいものなんだよ」
「そうなの? わたしもキス欲しいのー!」
ミミが口から涎を垂らして、じゅるりと啜る。
「あの、ミミに変なことを教えないで下さいね?」
「ははは! すまないすまない!」
すると、生徒会室のドアが開き、知世先輩が入って来た。
「あらぁ~、可愛い猫ちゃん!」
知世先輩がささっとミミを抱き上げて、頭を撫でる。
さらに、お腹を優しく撫でまわす。
その手つきは上級者。
まさにエステシャンの如く。
「ふにゃぁぁぁ……。凄く気分が良いの。気持ちが良いの。撫でるの最高に上手なの。ミミ、しゃーわせ……なの……」
ふにゃふにゃとした顔のミミが幸せそうに知世先輩に抱かれたまま目を瞑る。
「……可愛いわぁ。なんて可愛いのかしら。猫ちゃんはやっぱり最高ね。しかも喋る猫ちゃん!」
知世先輩がうっとりとした顔を浮かべる。
もはや、ミミが喋ることを疑問に思う生徒会ではなかったようだ。
ごほんと咳ばらいをして刀華先輩が場を仕切り直す。
「魔王を倒した勇者と聖女、そして、その加護を受けた八代君。さらに、知世の力とミミ君がいれば、どんなことがあろうと、我々に敗北の二文字は決して訪れないさ。そもそもの話。私たちは普通の人間を優に凌駕しているからね?」
確かに生徒会はもはや超人集団だった。
そうだな、きっと何とかなるだろう。
賑やかな生徒会を見たら、そう思えた。
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