第6話 お昼に来たやべー先輩
お昼になると天音さんはいつもファンたちに連れられてカフェテリアに行く。カフェテリアは学食も兼ねており、学生の要望に応え軽食から、がっつりイケるメニューまで取り揃えているため昼は賑わう。
俺は朝作った弁当を窓際で食って食い終わったら机に突っ伏して周囲の会話を聞くという昼のぼっちムーブをしていたのだが、天音さんが昼をどんな感じに過ごしているのかと気になったので、大衆に紛れてカフェテリアに向かった。
カフェテリアの奥、俺は天音さんがいる集団を見つけたので、天音さん達と少しだけ離れた席で弁当を食べ始めた。
ちょうど俺の前方。天音さんのファンが取り囲むように座っている。
ご飯なんて食べ辛そうな雰囲気の中、天音さんは気にせず白飯のおにぎりに塩を振りかけてパクリと食べていた。
天音さんのお昼は竹皮に巻かれた白飯のおにぎり二つとたくわんだった。
…………天音さんは戦に行く途中の武士なのか⁉
恐らく自分で作って来たに違いない。華やかな見た目から想像がつかない組み合わせであったが、ダイエットでもしているのか、節約でもしているのか、早くご飯を食べ終えて解放されたいのか、真意は不明だ。
「天音様はなぜいつもお昼はおにぎりなのですか? もしかして何か美容の秘訣でも?」
都合よくファンの一人が聞いてくれた。
どうやらいつもらしい……驚きだ。
「あ、えっと……」
天音さんの眉がぴくりと上下に動いた。
「食べ過ぎちゃうとお腹いっぱいになって眠くしまうし、その時にまぞく……、いえ敵に攻められた時に困りますからね」
「………………?」
「あぁ‼ ……いや、違うの‼ おにぎりを食べることが……習慣なんです‼ 塩むすびおいしい! あははっ‼」
「……は、はぁ」
だが、周囲はまだ少し戸惑っている様子だった。
天音さんは「こほん」と小さく咳払いをして言う。
「実はこの学園に転校する前に一年ほど、塩むすびしか食べることができない時期があったのです。それからずっと……」
天音さんがそう言うと、周りにいた奴らが突如涙を流し始めた。
「私、天音様のそんな事情を知らずにのうのうと生きていたなんて一生の不覚です!」
ファンの皆が「俺も……」「私も……」とハンカチを取り出して涙を拭く。
確かに天音さんの不幸な境遇には俺も同情しかなかった。
昼に敵の襲撃があるとか、異世界での聖女の食事事情はとんでもなく過酷だったらしい。
ファンの一人がパンと手を叩いて言った。
「皆さん、私たちのおかずを天音様に分けましょう!」
「いや、大丈夫ですよ? 食べ過ぎると胃がもたれて午後の授業に影響してしまうかもしれませんし……」
「だめです! 天音様のお気持ちも理解できますが、育ち盛りの私たちのお昼が白飯二つなんて! 色々と大きくなれませんよ!」
はぐっと天音さんが胸に剣が刺さったかのように吐血したように見えた。
俺の目視によると、胸は……Dくらいあると思う。
じゅ、十分だろぉぉぉぉぉぉがぁぁぁよぉぉぉ‼
「わ、分かりました……」
天音さんが何かに敗北したかのように承諾すると、弁当箱一つにみんなの弁当のおかずが入れられていく。
戸惑いながらも作り笑いをしてお礼を言う天音さん。
その光景がまるで教会にお布施をする村人たちのように見えた。
微笑ましい光景を見て、俺も和んでいたが――。
「いってぇぇぇなぁ‼ おい‼ 何すんだぁ、あぁん‼」
賑やかなカフェテリアが一瞬で静まり返った。
「ご、ごめんなさい……」
金髪でワイシャツの胸元は開けた如何にもといった男がファンの女の子を睨んでいる。
どうやらおかずを渡しに行った際にぶつかってしまったようだ。
あれは……元テニス部の主将のチャライケメンで有名の
先輩は
全く……、俺より先にもっと過激な不純を致している人がいたのを忘れていたよ。
処分後、学校に帰って来た先輩だったが、その彼女とは疎遠になりテニス部は当然退部した。
そこから黒髪だった髪を金髪に染め、元々の性根がそうだったのか分からないが、溜まった
「ったくよぉ‼ 毎日、毎日邪魔くせぇんだよ、てめぇらは金魚のフンか‼ あぁ、くせえくせえ‼ 金魚のフンを見ていたら、飯もまずくて食えたもんじゃねーわ!」
先輩も虫の居所が悪かったのか、椅子を蹴っ飛ばす。
「あぐっ!」
椅子が先輩にぶつかったファンの女の子のお腹に当たり、女の子はお腹を抱えて
そして、先輩は蹲った女の子に近寄って、彼女の髪を掴んだ。
「なんか言うことねーのかよ?」
「ご、ごめんなさい……」
ファンの女の子は怯えながら謝った。
周囲の奴らも先輩の威圧的な態度に委縮して動けない。
「……ご、ごめんなさい」
「けっ! 謝るしか能がねーかよ‼ てめぇの脳みその中身は空っぽか⁉ 俺はよぉ、こーいう思考停止無能野郎が一番嫌いなんだよ‼ 謝る他に何かすることがあるんじゃねーか⁉ あぁん⁉」
先輩がドンと女の子を突き飛ばし、女の子は地面を転がった。
「ご、ご……な…さ…い」
女の子は口をパクパクさせ、絞り出した謝罪の言葉だったが、恐怖のあまり上手く喋れていなかった。
「うっざ。てめぇは謝罪ロボットかよ。俺の靴を舐めますとか、慰謝料を払いますとか、一生パシリになりますとか、その程度のことも思いつかねーほど頭が回んねーのか」
先輩が足を振り上げた。
「だから、仕方ねぇ。俺を傷つけた分の落とし前をお前の体に刻んでやるよぉ!」
女の子の顔が真っ青になり、呆然と先輩の靴の裏を見る。
咄嗟に俺は助けに行かなければと席を立った。
そして、先輩が女の子の頭を踏みつけようとした時だった。
「あなたこそ、この子に謝罪をするべきなのが分かりませんか?」
天音さんが先輩の前に立ちはだかっていた。
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