第14話 私と競輪⑭

「ひゃうっ!?」

耳元で囁かれただけなのにビクっと反応してしまう自分が

恥ずかしくなりつつもどうにか平静を装っていると、

今度は首筋に吸い付かれてしまいました。

しかも痕が残るくらいに強く吸われてしまったため痛みを

覚えると共に変な声が漏れ出てしまいます。

それを聞き逃さなかった彼女はニヤリと笑みを浮かべると言ったのです。

「痛かった? ごめんね、

でもあなたの肌を見ていたらつい我慢できなかったのよ」

そう言いながらも何度も同じ行為を繰り返してくる彼女に

戸惑いながらも必死に耐え続けました。

「ねえ、こっちを向いてくれないかしら」

そう言って私の顎に手を添えて上を向かせると、再び口づけをしてきました。

今度は舌を入れてきたので私もそれに応える形で絡め合わせることにしました。

暫くの間お互いの唾液を交換し合った後に口を離すと銀色の糸を引いていましたが、

それが途切れる前にもう一度口付けてきました。

今度は先程よりも長く激しいものでした。

息が苦しくなったところでようやく解放してくれたのですが、

それと同時にその場に座り込んでしまいました。

その様子を見た彼女はクスリと笑うと耳元で囁いたのです。

「大丈夫、ゆっくり呼吸をしてごらん」

言われるままに深呼吸をしていると徐々に落ち着いてきたような気がします。

「落ち着いたみたいだね、よかったわ」

そうすると安心したように微笑んだ彼女の表情がとても可愛らしく見えたと

同時にドキドキとしてしまっている自分に気付いた私は、慌てて目を

逸らそうとしたものの既に遅くしっかりと見られていたようでした。

そんな私を揶揄うかのように微笑むと再びキスされました。

そして、ゆっくりと押し倒される形になりました。

その時の表情は、妖艶なものでありながら優しさを感じさせる微笑みだったことを今でも覚えています。

「まだキスしようね」

「はい……」

と答えるしかない私に容赦なく覆い被さってきたかと思うと激しく唇を奪われます。

何度も何度も繰り返されたことで息継ぎをする暇もないほどに深く長いキスをされていきました。

(もう無理……)

そう思った瞬間、やっと解放されましたが呼吸を整えるために必死になっている間に

今度は首筋や鎖骨など色々な場所に舌を這わせられていきます。

「もうやめませんか?」

「ダメよ」

楽しそうに答える彼女ですが、本当に止めて欲しかったので

説得を試みようとしますが一向に聞き入れてくれません。

「そろそろ出ませんか?」

「あら、まだ時間はあるわよ」

時計を見ると確かにまだ余裕はありますが、

これ以上入浴を続けると逆上せてしまわないか心配です。

それに……さっきからずっと弄られているせいで色々と辛い部分もあるわけで、

早くここから出て行きたいという気持ちもあったからです。

しかし、そんな願いも虚しく結局最後まで付き合わされる羽目になってしまいました。

翌朝、目を覚ますと隣には素肌のまま眠る久瑠宮さんの姿があった。

昨夜の出来事を思い出し赤面しつつも幸せそうな寝顔を見ているうちに

愛おしさが込み上げてきた私は、そっと抱きしめるとその温もりを

感じながら再び眠りについたのであった。

その後も何度か愛し合い続けた私達は、昼頃まで一緒に過ごしていたのだが、

流石にお腹が空いて来たこともあり昼食を食べることにした。

メニューは何にしようかと思ったところで冷蔵庫の中に

食材がほとんど無いことに気付いた為買い出しに行くことにしようと決めた私たちは外出の準備を始めた。

下着姿のままでは外に出られないと思ったのか、

久瑠宮さんは自分の部屋に戻っていったのでその間に服を着ることにした私だが、

鏡の前で自分の姿を確認すると胸元を中心にキスマークが幾つも付いているのが

見えてしまって恥ずかしかったものの不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

むしろ優越感に浸りながらニヤけてしまうほどである。

そして数分後に戻ってきた彼女と合流してアパートを出ると近くのスーパーへと向かうことになったのだが、

道中で手を繫いだり腕を組んだりして密着してくる彼女を

愛おしく思いながら歩いたせいか普段よりも早く到着した気がしたのだった。

店内に入るとまずは、野菜コーナーへと向かった私達はそれぞれ好みのものを選んでいくことにした。

ちなみに今回買う予定なのはトマトとキュウリ、レタスなどの生野菜類です。

他にも玉葱や人参、ピーマンなどをカゴに入れていく中で特に目を引いたものがあった。

それは鶏の手羽元で、美味しそうな見た目をしている。

それを見て思わず手が伸びそうになったものの、寸前のところで思い留まったのである。

なぜなら今ここで買ってしまうと後々困ることになるからだと考えたからである。

何故なら今日はカレーを作る予定だったからであり、

その為には他の材料も必要になるということを失念していた為に躊躇ってしまったというわけなのだが、

そんな時、不意に後ろから声をかけられたので振り返るとそこには久瑠宮さんが立っていた。

どうやら彼女も買い物が終わったらしくレジへ向かうところだったようだ。

(あ、危ないところでしたね……危うく買いすぎるところでした)

私は心の中で安堵のため息を吐くと、何事も無かったかのように振る舞いながらその場を離れたのであった。

その後、会計を済ませた後で袋詰めをする際に私が持つことにしたのだが、

その際彼女が私の手に触れてきたことでドキッとしたことは言うまでもないだろう。

というのも、その感触がとても柔らかくすべすべとしていたせいもあって意識せずにはいられなかったからだ。

そんな状態で店を出た後でアパートへと戻った私達だったが、

部屋に入った途端に緊張してしまいまともに会話することができなかった。

その様子を不審に思ったのか、何かあったのかと問いかけられたことで

我に返った私は慌てて誤魔化すことに成功したものの、内心ヒヤヒヤしていたのでした。

それからしばらく経って夕食の時間になったわけですが、

その間中ずっとお互いを意識し続けていたために何を話していいのかわからず

気まずい空気が流れていたのですが、それでも何とか話題を見つけて話しかけようとしたその時でした。

急に彼女が立ち上がって言ったのです。

その顔は赤く染っていて、まるで告白前の少女のように見えました。

そして、意を決したように私の目を真っ直ぐ見据えるとゆっくりと近づいて来てこう言ったのです。

その言葉に心臓が飛び出そうなほどドキドキしていた私は、ただ黙って頷くことしかできませんでした。

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