お仕置き (大学二年生男子 @合宿先の旅館の一室 (その2))

「俺も、コークハイボール飲んでみたいです」


 空のグラスを手に立ち上がる。

 飲んでいれば、また間接キスのチャンスが巡ってくるかもしれない。


「おお。その意気だ、若者よ」


 玲香先輩も一気にコークハイボールを飲み干して、俺の方に空のグラスを突き出した。

 作れということだろう。


 俺は座卓の周りの先輩方を起こさないように気を付けながら、コークハイボールを作った。

 玲香先輩の指南に従って作ったものはやっぱりウィスキーとコーラが半々だった。

 この分量は絶対に正しくないと思う。

 とても玲香先輩の真似はできず、俺はウィスキーが一割にも満たないぐらいの薄目のものを作った。

 そして、再び壁際、玲香先輩の隣に座る。


 玲香先輩にグラスを渡すと、「乾杯」とグラスを近づけてきた。


「乾杯」


 二人きりの三次会に心を躍らせて、グラスをぶつけると、床に転がっている一人の先輩が「んふー」と酒臭そうな息を吐きながら寝返りを打った。


「静かにしないと、起きちゃうって」


 小声で注意して膨れ顔になる玲香先輩に「すいません」と小さく謝る。


 玲香先輩は楽しそうに頬を緩めた。


 玲香先輩は他の人を起こさないようにしたいようだ。


 そう思うと、心が高揚する。

 人生初のコークハイボールはシュワシュワ甘くて、トロッとしていて、胃の中がグッと熱くなって、体が軽くなるような感覚だった。


 またスマホが震えた。

 妹の名前が画面に表示される。

 静かにしてって言ってやった、というメッセージと威張っているようなスタンプが届いていた。

 お疲れ様、と言っているパンダのスタンプを返す。


「両親が夫婦喧嘩していてうるさいって、妹が怒ってるんですよ」

「スタンプ、可愛いね」

「これですか?無料で拾ったやつですよ」

「そうなんだ。私も欲しい。送って」


 玲香先輩は素早くスマホを操作して、QRコードを表示した。


 ツヤツヤ光る玲香先輩の爪にまた女を感じてしまってドキドキする。

 玲香先輩の連絡先を登録してスタンプを送る。

 自然な流れの中で俺は玲香先輩のLINEをゲットしていることに心の中でガッツポーズする。

 合宿に来て良かった。

 旅費が厳しかったが、玲香先輩のLINEはプライスレスだ。


「これ、見てくださいよ」


 俺はすぐそこで寝ている先輩の変顔の画像を見せた。

 昼ご飯の時に先輩が送りつけてきて、何の気なしに開いたら……。


 玲香先輩は吹き出して笑い、慌てて口を手で押さえた。


 昼間の俺もこんな感じだった。


「ちょっと。ハイボールが出ちゃうじゃない」


 玲香先輩は左拳で俺の肩を叩いた。


「じゃあ、口直しにこっちで」


 俺は同じ画像を拡大して鼻の穴だけになった状態をまた玲香先輩に見せる。


 玲香先輩は両手で顔全体を覆う。

 声を押し殺しているが小刻みに肩を揺らしているのは笑っている証拠だ。

 しばらくその状態だったが、息を整えて、「はぁー」と言いながら、手を下ろした。


 俺はその瞬間を狙って、またスマホを見せようとする。


 玲香先輩は反射的に両手で自分の目を隠し、「もう、駄目だって」と言いながら、俺の二の腕にそのまま顔を伏せた。

 肩から腕にかけて玲香先輩がぶつかってくる。


 俺はアルコールのせいか力が入らず、そのまま逆側に姿勢が流れた。

 支えようとするが、支えきれない。

 あれ?

 玲香先輩に押されている?


 俺はいつの間にか床に横ざまに倒れていた。

 振り仰げば玲香先輩が俺の上にのしかかってくる。


「いたずらっ子には、お仕置きね」


 玲香先輩は濃いコークハイボールを口に含むと、横たわる俺に覆い被さってきた。


 え?


 玲香先輩の少し上気した顔が徐々に近づいてきて、やがて、俺の唇がしっとりと濡れた。


 ぬるくて冷たい、甘くて辛い玲香先輩のコークハイボールが口の中に注ぎ込まれた。

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