第14話「前兆」
14話
2025年 4月7日
弦木グループは古くより存在する魔術師の家である弦木家の表向きの顔だ。
夜交市に根差し、都市開発を始めとした様々な事業に関わって来た弦木グループは夜交市、特に輪祢町の経済発展・インフラ整備に大きく貢献していたこともあって、古くより住まう人々に慕われている。
そんな輪祢町の西側にあるのが弦木家本家。江戸時代から存在する武家屋敷を改装したりするなどして残し続けてきた、文部科学省に申請すれば重要文化財として認定されていたであろう屋敷が存在する。
広大な敷地面積を誇る屋敷は一つの城と見紛うような大きさと広さと威容を誇り、訪れる者、足を踏み入れる者に感動と畏怖すら与える。
……余談ではあるが、近代化及び都市開発の影響を受けるという特性から夜交市の霊脈を未だに守り続けている弦木家や「草薙機関」を始めとした面々を含めた日本の魔術師たちの手腕をこの地球で最もその歴史が古いとされている
『日本の神秘ほど柔軟性の高いものはない。仮にこの世界が科学ではなく魔道による人類発展という可能性があれば、我々と肩を並べるか、それ以上の神秘を宿していただろう。それこそ、情勢を変えるほどに』
このように、元々島国同士という面と日本列島独自の内部事情と魔術関係の事情などもあって、歴史の深い魔術組織の多くはそのように評価している。
「お疲れさまです」
「うむ」
弦木家本家の
彼の名こそ、現弦木家魔道の現当主兼弦木グループ先代総帥、
近代の弦木家及び夜交市の魔術世界における重鎮にして、かつて第二次世界大戦の裏であった外部の魔術師同士の戦いなどにおいて、「弓取」の異名を評した大魔術師である。
「お待ちしておりました、
弦木家本家の建物の前に、女性物の和装に身を包んだ、弦木家魔道の次期当主の
「ごくろう、環菜。……後ろの者は、お前の連れか?」
藤十郎は環菜の後ろに控えている黒スーツ姿の2人……結人と頼孝を見て言った。
「はい。この者たちは
凛とした仕草で、そして真っすぐに環菜は自分より頭1つ身長の高い祖父を見上げながら言った。
「構わぬ。お前が信を置く者たちならば、きっと問題はなかろう。
「ありがとうございます。では、どうぞこちらへ」
祖父の許可を得た環菜は一礼をして、弦木家本家へ案内を始めた。
普段、弦木藤十郎は彼自身が
内装は見渡す限り和風建築の武家屋敷。和洋折衷という言葉も存在するが、その言葉が当てはまらないほどに洋風建築の欠片も見当たらず、現代科学の恩恵を受けている場所は食事を作るための厨房であったり、家内を照らす照明関係のものであったりとその数は少ない。
そうして環菜に案内された先は、地下に通じる大階段。段数も多く外の光を拒むほどの暗い中を文明の灯りが灯し、4人は地下へと下っていく。
「この大階段を下るのは実に3年ぶりだ。成長したお前とここを下りることになるとは、儂としても感慨深いものがある」
大階段を下る中、藤十郎が口を開いた。
「はい。私は、今回でこの階段を下りるのは二度目ですが、やはりここは苦手ですね。当時は
後ろを歩く祖父に顔を向けず、環菜は淡々と喋りながら大階段を下りていく。
この“大階段を”下りるということは一種の特別な意味があるのか、環菜の表情は険しく、下りる足取りはどこか震えているようにも見える。
「此度行われる“会議”は今後の我々の在り方を見直すか、あるいは変わらぬままなのか。このような日が来るであろうことは、大方予想はしていたがな。いずれにせよ街の異変解決だけに留まる話だけではなかろう」
「はい。
「我ら神秘に属する者たちの事が表に出てはならぬ。そしてそれが表に出ることあらば、我らの存在意義そのものに関わる。交わってはならぬものが交わることは本来あってはならぬことだ。故に此度の会議はここ数年、行われた会議の中でも重要なものになるであろう」
国内有数の大魔術師と謳われる藤十郎の言葉は重苦しく、それを聞く環菜、そして藤十郎の後方に控えている結人や頼孝にも形容しがたいプレッシャーのようなものを感じさせた。
五つの家……「弦木家」「夜上家」「滝浪家」「江取家」「霜田家」は日本有数の霊地である夜交市を守る大結界の基点を守る家であり、その性質上日本各地の魔術師の家系の中でも戦闘に特化したことで知られている。
過去には政略結婚などで家同士の関係を深めたりもしたのだが、戦後の混乱などによってその関係に綻びが生まれるなどしたことや、それぞれのお家事情により、個人主義に走り出したことで、もはやその五家同士の同盟関係は建前上のものと化している。
そして今回のように五つの家の家長が集まるような、大規模な会議は戦後においても数回しかなかったことであり、夜交市が危機的状況に陥っていることを意味する。
そのため環菜にとってはどのような立場であれ、今回の会議は大きな戦争の前触れのようなものだと認識しており、その認識は間違ってもいない。
「お前もそんなに緊張せぬともよい。我ら弦木家魔道の後継者はお前だ。儂の跡目を継ぐ立場であるのだから、堂々としているがよい」
「はい、
藤十郎の大きな傷だらけの手が環菜の肩に置かれ、柔らかな声で激励を送られる。
環菜にとってはそれだけでもとても心強いもので。
弦木家で基本的に居場所のなかった彼女にとって、祖父の激励は多くの戦いを経てきた彼女にとっても安心の出来るものだった。
「……着きました」
気が付くと大階段を下りて木製の大きな扉が目の前に見えた。
環菜はその木製の両開きの扉の中央に手をかざす。
すると、
“……なんて威圧感だ”
後方に控えている結人は開いた扉の向こうからやってくる威圧感に顔をしかめる。
この先はまさに伏魔殿。
かつて
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