第12話

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 三分間だけ使える異能力。

 俺は、三分間だけ透明人間になることができる。



 俺は、湯船から勢い良く立ち上がる。



 ――ザバーーーン!!



 俺を纏っていた湯水は、湯船へと流れ落ち、俺の発育が現れる。


 逃げも隠れもしない。

 正々堂々と、湯船の前で待ち構えるお姉さんたちに向けて、俺は見せつけた。


 お姉さん達の驚く顔が、新鮮に感じた。

 心の準備をしていたであろう彼女達は、悲鳴をあげることは無かった。

 なぜだか、黄色い声援が飛んできた。


「「キャーーーーッ!!」」



 期待していたよりも、俺の発育が大きいのだろうか?

 すごく良い反応……。


 一度俺の発育を見たことがあった番台さんも、感嘆の声をあげた。



「……おおぉ、あらためて見ると、やっぱりでかい。直視するのが、恥ずかしくなるくらいでかい」


 番台さんは、顔を赤らめながらも、目を輝かせていた。

 無くしていたお気に入りの玩具を見つけた子供のような目の輝き。


 けれども、段々と恥ずかしくなってきたのか、少し伏し目がちになり、最後には目を泳がせていた。


 お姉さんたちも、俺の発育をマジマジと見て、ウットリと嬉しそうにしている気もする。


 そんなに見るのであれば、俺が覗いていた件も、チャラになるのではないかと思ったりもするのだが……。



 番台さんは一通り堪能したのか、一つ頷いてから俺に向かって言う。


「やっぱりお前は、さっき見た覗きと同一人物だ。やっぱり、でかい!!」


 お姉さんたちは、ずっとキャーキャー言っている。

 遠くの方にいて俺の発育が見えないような人は、我先にと前に出てきて見ようとしてくる。


「よーし! ‌堪能した人から捕まえに行ってくださいー!」


 番台さんは、何か言っているようだが、よく聞き取れない。

 お姉さんたちは、番台さんの言葉を聞き終わる前にこちらに向かって来ていた。


 お姉さんたちが慌ただしくしている、今が絶好のチャンス。


 発育抜群女さんも、俺の方を見つめて嬉しそうな顔をしていた。


「これが……、発育というものですね」


 この子は、さっき俺の言ったことを覚えているのだろうか……。

 心を読む異能力を発動させて欲しいと言ったのだが、通じていないのかもしれない。


 ちゃんと俺の意図通りに合わせてくれるといいのだが。

 この子のことを信じつつ、俺は異能力を使うべく、最後の調整をする。


「もっと近くで見てくれ! ‌早くしないと、寒くて小さくなっちゃうぞ!!」


 俺はお姉さんたちを、囃し立てる。

 まだ俺の発育が見えていないお姉さんたちは、さらに前に出てこようとしている。

 もともと見えていたお姉さんたちも、それに負けじと、もっと前に出てこようとしている。


 それはまるで、バーゲンセールで我先にと商品を取りに行くような状態と一緒。

 ちょっとしたパニック状態になっている。



 けど、もっと引き付けてからだ。

 座って見ている発育抜群女さんの顔に被るように動いて、俺は自分の発育をお姉さんたちから隠す。

 これで、さらに、お姉さんたちは前に来るだろう。


「えっと……。ちょっと、こんな近くだと、逆に見えないですよ……。当たっちゃいそうですし……」

「ああ、知ってるけど、少しだけ我慢してくれ」



 俺は、発育抜群女さんの眼前で、発育を見せつつ待つ。



 そうすると、すぐに、俺の想定通りの状況になった。

 俺の発育を見るために、お姉さんたちが、湯の中に入ってきた。


 バシャバシャと、湯をかき分けてこちらへ進んでくる。


 我先にと、大群が水の中を進む姿は、さながらバッファローの群れのようである。

 威圧感がすごい。


 お姉さんたちは、発育抜群女さんと同じ位置で鑑賞しようということかもしれない。



 お姉さんたちが十分近づいてきたところで、満を持して俺は透明になる異能力を発動させた。


 上半身から、徐々に姿が消えていく。

 上半身が消えると、今度は下半身が消えていく。


 最後に消えるのは、俺の発育。



 発育にしか目がいっていないお姉さんたちは、俺が透明になっていることに気付くのがワンテンポ遅れたようだった。


 俺の近くまで来ていたお姉さんは、いきなり俺がいなくなったことに驚いて、その場に止まった。

 だが、その後ろにいたお姉さんは、前の人が止まった隙に前に出てこようとしている。


 バシャバシャと湯の中が水しぶきであふれる。

 人が多すぎて、遠くから見ていたら、俺が消えたことなんて全くわからないだろう。


 この隙に俺は、恥の方から湯を出る。



 三分間。

 俺に与えられた時間は、それだけだ。


 その間に、この場から抜け出す。


 それが、今の俺にとっての、三分以内にやらなければならないことだ。

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