300letter stories[2023-]

鳥ヰヤキ

世界の全て

 僕の体はずっとベッドの上にあった。部屋に備え付けられた窓だけが、僕の知る世界の全てだった。

 横たわる目の上を、揺れるカーテンの影が滑っていった。当然のようにそこにある光と、変わりゆく季節を、僕はただ眺めていた。痛みだけをもたらす体、苦しみだけを伝える口、もがき苦しむだけの手足の奥にある、僕の魂にとって――初めて、そして最後まで希望の光であり続けたもの。

 僕の体よりも先に世界が終わってしまった。戦火に呑まれる、かつて美しかった村。置いていかれた病人である僕は、最期を記したノートを窓の外に投げる。

 すぐに燃えてしまうだろうか。それとも誰かが拾ってくれる? わからない。その先は、僕の知らない世界だから。


 終【お題:初(2023/01/07)
】

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