300letter stories[2020-2022]

鳥ヰヤキ

魔法の鍵

 この鍵さえあれば君はどこにでも行けるよ。そう言われて持たされた鍵は、確かに魔法の鍵だった。

 ガチャ。青い花畑の部屋。ガチャ。玩具でいっぱいの部屋。ガチャ。本に囲まれた部屋。

 どれも夢見るように美しくて、いくらでも遊んでいられる。それでも、どこにも、出口は無い。鍵の掛かった部屋から部屋へと、ただ移動しているだけ。ガチャ、ガチャ、ガチャ。

 どこにでも行ける鍵なんかじゃない。私は、この箱の中に閉じ込められている。なのに、鍵を棄てられない。

「それでも、いつか私を連れ出してくれる誰かと出会えるかも……」

 震える手で、鍵を開ける。

 この期待こそが、私を縛る枷なのだとは、気づかないふりをする。


 終【お題:鍵(2020/06/06)】

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