第4話黄金の掌握

 三人のパーティー名は、黄金の掌握というらしい。

 赤髪の女性が、ヴァレリア。

 禿げ頭で巨躯の男が、ゴリアス。

 黒ローブに三角帽子の女性が、マリエル。


 目的地に向かう途中、色々説明されている。

 三人の目的は財宝収集。

 俺も簡単に自己紹介した。


 今回も財宝を求めてダンジョンに潜っていたら、金色の宝箱を見つけたとのこと。

 だが、パーティーにシーフがいないので、開錠できない。


 何とか開錠できないにしても、宝箱だけでも持ち帰られないか考えたそうだが、怪力のゴリアスの力でも無理だったそうだ。


 そこで、後ろ髪は引かれるが、グランデシティアの冒険者ギルドでシーフの助っ人を見つけることにしたらしい。

 三人は黄金の宝箱の中身は、途轍もない財宝だと睨み、シーフに開錠させようと考えた。


 黄金の掌握の目的が財宝収集だから、日頃パーティーメンバーにシーフがいないのは、おかしいという声も出ていたそうだ。


 それでもシーフになり手が少なく、中々見つからなかったようだ。

 この世界のジョブで人気があるのは、戦士、格闘家、魔法使い、僧侶といったオーソドックスな職業だ。


 黄金の掌握が三人なのは、最後のメンバーの1枠にシーフを考えていたが、見つからなかったせいらしい。


 この世界のパーティーメンバーの上限は4人だ。

 その人数を超えてしまうと、女神の加護が受けられなくなり、ステータスが大幅に下がるようだ。


 冒険者でなく、騎士団などは大人数で部隊を組んでもステータスが下がらないから、そう考えると冒険者は損な職業だ。





 目的のダンジョンに到着した。


「さあ、行くよ。奥にはお宝が眠っている」


「ああ」


 三人から緊張が伝わってくる。

 よっぽどすごい財宝だと目星を付けているのだろう。


 三人は迷いなく進んでいく。

 宝箱の位置がわかっているからというのもあるが、恐怖はないのだろうか? 俺は初めてのダンジョンだ。


 もちろん、前世でゲームをやっていた時に、ダンジョンに入ったことはあるが、実際には初めてだ。


 薄暗さや、肌寒さ、微かな腐臭がする。

 それよりも何よりもモンスターが出てくるのだろうか。

 俺はヴァレリアに訊いてみることにした。


「なあ、ヴァレリア。ダンジョンってモンスターが出るんだろ?」


「何を言ってるんだ、あんた。当たり前だろ。今さら何の冗談だ? 駆け出し冒険者じゃあるまいし。無理に和ませようとしないでもいい。お前の仕事は開錠だ。冗談を言うことではない」


 駆け出し冒険者です。

 冗談でもないです、って言える雰囲気でもなかった。


 俺の危険察知スキルも告げている。

 モンスターが近づいていると。


 ゴブリンだ。

 昔、四人がかりで敗走した。


 因縁の相手というやつだ。

 昔負けたゴブリンに比べてはかなり小さいが。


「どうした、エミリオ?」


 ヴァレリアに俺の不安が伝わったようだ。

 冒険者失格だな、クライアントに気を遣わせるなんて。


「何でもない、すぐ片付ける」


 ゴブリンが近寄ってくる。

 体も小さいし、動きも緩慢だ。

 ナイフで首筋を斬りつけると、崩れ落ち、絶命した。


「終わったか……」


「何を大げさな、ゴブリンごときに」


 ヴァレリアにとってはゴブリンなど矮小な存在なのだろう。

 俺にとっては、大したことではない。


 パーティーが瓦解寸前までいったのだから。

 別個体とはいえ、感慨深い。


 レベルが上がった。


 名前:エミリオ

 種族:人間

 年齢:15歳

 ジョブ:シーフ

 レベル:2


 HP:15

 MP:0

 STR:8

 VIT:5

 AGI:25

 DEX:23

 INT:1

 RES:3

 LUC:20


 装備

 盗賊のナイフ

 盗賊のバンダナ

 盗賊の服

 盗賊の靴


 スキル

 盗む:LV5

 罠発見:LV3

 罠解除:LV3

 罠設置:LV3

 隠し通路発見:LV3

 敏捷:LV3

 毒耐性:LV1

 隠れ身:LV3

 危険察知:LV3

 気配察知:LV3

 投擲:LV:1

 逃走術:LV3

 変装:lv1

 軽業:LV1

 暗闇視力:LV1

 地獄耳:LV1


 これがレベルが上がるということか。

 力が湧き、高揚感がある。


 前世でやっていたゲームだと、BGMが流れ、上昇ステータスが表示されていた。

 それだけでも嬉しかったが、実際にレベルが上がるとこんなに高揚感があるとは。


 これが冒険者の醍醐味というやつか。

 危険な職業であるにも関わらず、辞められないわけだ。


 モーガンたちもこの感覚を味わったら、冒険を楽しんでもらえるのだろうか。

 そのためには、冒険を始めてもらわないとな。


 レベルアップも嬉しいが、黄金の掌握にとっては、それが財宝の発見なのだろう。

 俺も実際に発見したら、どんな感情が湧いてくるのだろうか? 楽しみだ。





 ゴブリンを倒したところで、引き続き奥に進んでいる。

 モンスターは湧いているが、ヴァレリアとゴリアスが問題なく倒している。


 動きを見ているだけで、二人が相当な手練れだということがわかる。

 俺とマリエルの出番はなさそうだ。


 パーティーメンバーに僧侶といったヒーラーがいないのに、ここまで生きのびてきたのは来たのは賞賛に値する。


 マリエルの魔法はまだ見ていないが、見てみたいな。

 相当な力を秘めていそうだ。


 彼女は三角帽子を被っているせいか、視界が悪いのだろう。

 足元の石に躓き、こけそうになった。


「おっと……大丈夫か?」


「ええ、ありがとうございます」


 俺がマリエルの体を支えこけることはなかった。

 何故か赤面していたが、体調でも悪いのだろうか。

 気にはなるが、ここはクエストを優先させるために、訊かないでおこう。





「ふう、目的地に近づいてきたぞ」


 ヴァレリアから嬉しい報告があったが、良くない報告もある。


「なあ、ヴァレリア、オーガって倒せるか?」


 オーガ。鬼の見た目をした凶悪なモンスターだ。

 高ランクのパーティーでも苦戦すると聞いたことがある。

 もちろん、駆け出し冒険者が倒せるような相手ではない。


 俺はヴァレリアに確認することにした。

 YESという返事が当然返ってくると信じて。


「無理だな。あたいら三人がかりでも。あんたを入れた四人でも無理だろう。それがどうした? まさか……」


 俺の危機感地スキルがオーガの接近を告げている。

 三人はまだオーガの接近に気付いてないらしい。

 俺はヴァレリアの質問に首肯した。


「なんてこったい、ここまで来て。あんた、嘘言ってたら承知しないよ」


「……エミリオの言っていることに間違いありません、ヴァレリア」


 マリエルが珍しく口を開いた。

 どういうことだろう?


「ちっ……マリエルの言うことなら本当か。マリエルの感覚共有スキルに今まで散々助けられてきたからね」


 マリエルは感覚共有スキル持ちなのか。

 それが俺の発言を裏付ける証拠になったようだ。


「どうしたもんかね……」


「俺に考えがある」


「引き返すとか言うんじゃないだろうね?」


「いや、お前たちに必ず宝箱の中身を持ち帰ってもらう。それがクライアントの期待に応えるってもんだろ?」


 血が騒いできた。

 宝箱の中身を持ち帰りたい。


 これもシーフというジョブを選んだ影響なのだろうか。

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