第2話エミリオの計画

 話し合いは続いている。


「確かに魔王討伐は言い過ぎた。すまない。もっと堅実なクエストをこなしていこう」


 人はいきなり出来そうないことを言われたら、やる気をなくす。

 現実的な話から始めていくことにした。


「堅実なクエストって何ですの?」


「掃除や、修理。探し物を手伝うとか。依頼者が探している薬草やアイテムを見つけてくる。調べものとかもある。慣れてきたらモンスター討伐したり、商隊の護衛もしよう。ありがたいことに冒険者ギルドには簡単な仕事がたくさんある。どうかな?」


 ゴブリンに負けてから、三人はモンスター討伐を嫌がるようになった。

 無理強いしてもしょうがないだろう。


 おつかいみたいな簡単なクエストで自信をつけさせてから、徐々に難しいクエストを受注していく流れにしたい。


「え~、面倒ですわ。楽して生活したいですの」


 こういうリアクションは想定済みだ。

 辛抱強くいかなければ。


 マルセリーヌは公爵家育ちで、身の回りのことは全て使用人がやってくれていた。

 いきなり雑用をやれと言われても、拒否感はあるだろう。

 プライドがあるだろうし。


 楽して生きたいと言うのも、わからんではない。

 ここは叱らずに俺の意見を少しづつ投げかけていくしかない。


「そうですよ、エミリオ。無理して疲れるようなことはしたくないです。貴方が勇者のふりをしてくれれば楽して稼げますのに。何がそんなに嫌なのですか?」


 モーガンも同意見のようだ。


「詐欺みたいなことするの普通に嫌じゃないか? 良心が痛むし。それに見つかったら牢屋行きだぞ。自由がないし、臭い飯食わなきゃだぞ? どうだ、モーガン? ほれ、ほれ」


「ぐぬぬ……臭い飯は嫌です。美味しいのがいいです」


 モーガンは悔しそうに拳を握りしめている。

 良心が痛んでいるのかはわからないが、臭い飯は食いたくないらしい。

 当たり前か。


「エミリオ、どうしちゃったのよ。一番悪役っぽいのに。もっとシーフっぽくしなさいよ」


 ラヴェラも同意見のようだ。


「勝手に変なイメージ擦り付けんな。シーフの風評被害だ。お前はどうなんだ、ラヴェラ? お前が一番まともだと思ってたんだけどな。毎日踊り子として働いているじゃないか。金には困ってなさそうだし。働くことも嫌いじゃないと言ってたじゃないか」


 ラヴェラは休みなく踊り子として働いていて感心する。

 目つきや口の利き方はきついが、一番悪人っぽくはない。


 俺は何故ラヴェラがモーガンとマルセリーヌに同調するのかわからない。


「それは……」


 ラヴェラは口ごもっている。

 明確な答えがないからだろう。


「二人に流されたんだろう?」


「う……」


 ラヴェラは図星なのか、目をそらし、手で髪を撫でている。

 教師をやっている時もそうだった。


 問題を起こした時の生徒と一緒だ。

 特に悪さをしたいわけではないが、周りに流されて、ばれて気まずそうにしている。


「お前は悪人には見えない、ラヴェラ。善人でもないけどな、はは」


「うっさいっての。まあ、犯罪を犯したくってのは本音だけど。シーフのくせに善人面するなバカエミリオ」


「だから風評被害だって言ってるだろ。世の中のシーフみんなに謝れ」


「バカ……でもありがと。あたしを犯罪者にしないでくれて」


 ラヴェラはわかってくれたようだ。

 口は悪いが根はいい子。

 そんな生徒がいたなぁなんて、前世を思い出して感慨深くなる。


「ラヴェラ、絆されましたわね。わたくしは諦めませんわよ。お~ほっほっほ」


 そんなに物事というのは、簡単にいくことでもないと思う。

 人は簡単に変われないから、じっくりいくしかない。


 寧ろ簡単にいくことの方が稀だろう。

 マルセリーヌの方が普通とさえ思えてくる。


 マルセリーヌのような考え方の持ち主が、変わってくれた時の方が感動がでかいような気がする。

 なので俺は腹は立たない。


 寧ろワクワクする。


 今度は、モーガンに目をやると、しょぼくれている。


「しょぼ~ん」


 牢屋に入って臭い飯を食うイメージが頭を過ぎっているのだろう。

 そっとしておいたほうが良さそうだ。


「マルセリーヌ、提案だ」


「何ですの?」


 とはいえ、このままほっておくわけにもいかない。

 マルセリーヌが別のよからぬことをたくらむかもしれないから。


「マルセリーヌ、お前は宿でゆっくりしていろ。宿代も食費も俺が出す」


 甘やかしすぎだと思われるかもしれないが、無理強いしても反発を買うだけだ。

 俺にはある考えがある。

 それを三人に聞いてもらおうと思う。


「何ですの? 気味が悪いですわ。わたくしとしては願ったりかなったりですけども」


「モーガンもラヴェラもだ。暫くゆっくりしてくれ」


「はい?」


「何なのよまったく……意味がわからないわ。一緒にクエスト受けるんじゃなかったの?」


 モーガンもラヴェラも困惑している。


「いきなり言われてもついてくるのは無理だろう。なので俺が一人でクエストを受ける。そこで俺が結果を残せば一緒にクエストを受けてくれるか?」


 初めからついてきてくれるとは思っていなかった。

 徐々に俺の考えを伝えて、いつかついてきてくれればいい。


 そのために三人が興味を持ってくれるアクションを考えていた。

 俺が一人で結果を出すことだ。


 やっぱ男は背中で語らないとな。

 なんちって。


「わたくしにとって、その提案には何のメリットもなさそうですわ。でも面白そうではありますわ。四対一でゴブリンに負けたエミリオがクエストを受けるとおっしゃっている。わたくしは宿で優雅にアフタヌーンティーをいただいていればよろしいのかしら? お~ほっほっ」


「なんで午後限定なんだよ……」


 拒否されるかと思ったが、それなりに満足そうなのでいいか。


「何で一人なのよ。まどろっこしいわね。あんたにちょっと興味がでてたのに。一緒に冒険するのも悪くないと思い始めてたのに。まあ、あんたがそういうのならしょうがないわね。ぶつぶつ……」


 ラヴェラは何かぶつぶつ呟いている。

 何か心変わりでもあったのだろうか。


 生徒の自主性を重んじるのが良い教師だ。

 ここはほっとくのがいいだろう。


「私は美味しいご飯が食べられればそれでいいです。後は夜のお店で美人とお酒が飲めれば最高です。ああ、それと高く売れそうな装備品やアイテムがあったら持ち帰ってくれたら嬉しいです」


 要求多いな。

 モーガンは宿で大人しくしていることは難しそうだな。


 また勝手に散財しそうだ。

 モーガンが節約する方法も今後考えないとな。


「ああ、期待しないで待ってろ、モーガン」


 まったく世話が焼けるやつらばかりだ。

 でも俺にとっては可愛い生徒だ。


 こいつらがいつか本物の勇者パーティーを超えてくれると思うと胸が高鳴る。

 現時点では夢のまた夢だが。

 そのために俺は最善を尽くそうと思う。


 だが、今は自分自身のことに集中しなければならない。

 先ずは何のクエスト受けようかな。

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