第40話 人間じゃないからセーフ


 ダダダンッ!

 ダダダンッ!

 ダダダンッ!

 オオカミの空の生き残りがAKライフルを俺に向けて撃つ。

 同時に、多香子が再び魔法の詠唱を始めた。


「パグサマサマヒン アン カパンギャリハン ニ アポイ サ アキング マガ カマイ、アト マナハン サ アキン……」


 火炎放射の魔法だ。

 この魔法で俺達は何匹ものモンスターを倒してきたのだ。


 そして。


 西村が剣――アイテムボックスから出現した、『光の剣』と呼ばれる逸品――を振りかぶって叫んだ。


「三崎ぃぃぃ!! 死ねやああああ!」


 銃弾は俺の魔法で防げる。

 多香子の魔法も俺の魔法で防げる。

 だけど。

 この西村の近接戦闘はそうはいかない。

 戦士スキルの乗った物理攻撃を魔法だけですべて防ぐことは難しいのだ。


 ダダダンッ!

 ダダダンッ!

 ダダダダンっ!


火炎放射ファイヤーアタック‼️」


 AKの銃弾が飛び交い、多香子の火炎放射が俺を襲う。


「ラパ、イカウアイマギン、イサンワラガンシールドナブマッピサアキングカタワン。ガマラウナパデルナウォール、マティバイナパナナティリ。アンイキングピノプロテクタハン ナマギックバリア、ティナタウ イトン! 絶対防護プロテクションナラパ!!」


 顔にはりついたミャロのおなかを吸いながら、俺はまず魔法障壁を作り出す。

 これまでの戦闘で、俺の探索者として熟練度も上がっている。

 それも、『人間を倒した』ことによる熟練度の上がり具合はなかなかのものだった。

 ありていに言えば、『レベルがあがった』のだ。

 正直、モンスターを倒すよりも多くの経験値が入った体感がある。

 人を殺せば殺すほど強くなる――。

 くそ、ダンジョン内ってのはろくでもないつくりをしてやがる。

 俺の魔法障壁はアサルトライフルの銃弾をはじき、多香子の魔法を完全に防ぎ切った。

 そして……!

 西村が斬りかかってくる!


「おるぁぁぁぁぁ!」


 その剣は一度俺の魔法防護にはばまれ、しかしそれは一瞬で、ギャリギャリ! という音ともにあっという間に俺を守っていた障壁を破る。

 西村の一撃が俺の身体をかすめた、というか腕の表面は斬られちまった、血が噴き出る。

 白猫を顔に貼り付けた西村と、黒猫を顔に貼り付けた俺。

 まさに、命のやりとりが始まっているのだ。


〈猫を顔にはりつけた猫仮面たちが戦ってる!〉

〈ビール飲みながら爆笑して見てる〉

〈っていうかマンツーマンの闘いなら、明らかに前衛職の方が有利だよな?〉

〈ついに主がグロ死体を晒すときがきたのか……〉

〈ミャロちゃんだけは助かってくれ〉

〈いや俺は主を応援するぞ! がんばれ!〉

〈勝ったら今度の配信で投げ銭してやるからな〉



 ……たしかに。

 マンツーマンの闘いならば、俺の方が圧倒的に不利だ。

 俺の空刃の魔法で、圧倒的な体力をほこる西村を一撃で屠ることは難しいだろう。

 だけど。

 だけどな。

 これは、マンツーマンの闘いではないんだ。

 俺は顔に貼り付いているミャロのおなかの匂いを精いっぱい吸ってから、ミャロを顔から引きはがすと床にトン、と置いた。


「ミャロ、人間の姿になれ。二人でお前の姉ちゃんを助けるぞ」

「にゃっ!」


 答えて、ポムッ! というポップな音とともにミャロが少女の姿になった。

 ……あれ、タオルがないから全裸やぞ?


「……お姉ちゃん……たすけてあげるにゃよ……」

 ……本人はきづいてないみたいだが……ま、いいか?」


〈裸〉

〈たすかる〉

〈たすかる〉

〈えっっっっっっ〉

〈あれ、これ人間じゃないからセーフだよな? モンスターだもんな?〉

〈女子中学生にしか見えない〉

〈たすかる〉

〈アウトやろ〉

〈モンスターだからセーフだぞ!〉

〈やべー、ミャロちゃん綺麗……〉

〈しなやかな身体してるな、さすが猫科〉

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