第38話 俺も同じのを持ってる

 いったいなにが起こったと言うんだ!?

 俺以外にマナが吸引され尽くしたこのダンジョン内で魔法が使えるやつがいるのか?

 とっさに魔法障壁で防いだが、まじで意味わからん。


「シャーッ!!!」


 ミャロが威嚇の声を上げる。

 薄暗いダンジョンの通路、その角から出てきたのは――。

 二人の人物だった。

 一人は剣を持ち、全身をプレートアーマーに包まれた戦士。その姿に似合わない、大き目のボディバッグのようなものを身に着けている。

 そしてダンジョン内のアイテムボックスから手に入れたのだろう、魔法のローブを身に着けた女性。

 そして俺は、この二人に見覚えがあった。

 見覚えがあった、どころではない。

 愛憎極まった感情の対象だ。

 俺はつぶやいた。


「西村……。それに、多香子……」

「へ、三崎ぃ、まだ生きていたのかぁ?」


 相変わらず凄みのある、爬虫類みたいな顔をしてやがる。

 多香子はすこし、怯えているようだ。

 たった今、俺に魔法を撃ったのは多香子か?


「そりゃ生きてるさ。西村、お前こそまだ生きてたのかよ」


 俺が敵意のこもった声で言うと、


「おいおい、三崎ぃ、お前俺にタメ口きけるほど偉くなったのか?」

「俺に敬語つかわれるほど偉くはなかったぞ、お前は」

「言うじゃねえか」


 ヘラヘラと笑みを浮かべている西村と睨みあう。

 俺は西村から目をそらさず、そっとミャロの腕をとって抱き寄せるようにする。


「にゃにゃ……」


 俺にはミャロの力が必要なのだ。


「今さっき聞いたぜ、三崎……お前、オオカミの空の戦闘員をやっつけたそうじゃないか……」

「なぜそれを知ってる?」

「聞いたからな……。オオカミの空もよお、せっかく俺が加入してやったと思ったらそりゃないよなあ……」

「は? なにを言ってる?」


 西村が? オオカミの空に加入?

 どういうことだ?

 気がつくと、西村と多香子の後ろには数人の男たちがいた。

 全員、防弾チョッキとアサルトライフルを装備した、明らかな戦闘員だ。


「オオカミの空も現状、これしか戦闘員がいなくなったからなあ……。外から増員がくるまでにこの人数でやりくりしなくちゃいけなくなったから、大変だよなあ……」


 ニヤニヤと下卑た笑いでそう言う西村。


「なぜオオカミの空なんかに……」

「そりゃ、金さ。へへ、このダンジョンから逃げ出そうとしたけどよお、その途中によわっちいモンスターを捕まえてよぉ、そしたらお前、このマナを吸引されたダンジョン内でもスキルが使えるじゃねえかよぉ。戦力になるってんで、お前、なかなかの金額でスカウトされたってわけよ」


「おいおい、犯罪者集団に加わったってのか、ほんとに終わってんな西村……。それに、多香子……」


 俺の言葉に、多香子はびくっとして、


「わ、私はいやだって言ったんだけど……。リーダーが言うこと聞かないと殺すって……」


 ほんとに西村はクズだが、多香子にも別に同情心はわかない。

 っていうか、よわっちいモンスターを捕まえたとか言ってたが、それって……。


「へへへ、どうだ、三崎、お前も俺らの仲間に加わらねえか? 金も、女も、いくらでも提供してくれるそうだぜ……そこの猫もセットだ。なあに、大丈夫さ、俺も同じのを持ってるから仲間になれるぞ」


 そう言って西村がボディバッグから何かを取り出した。

 それは、ミャロの首に着けられているのと同じ、拘束用の革ひもでぐるぐる巻きにされた、一匹の白猫だった。


 それを見てミャロが叫んだ。


「お姉ちゃん!」

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