ダサイおさむ

蛭子能収というヘタウマの漫画家が居る。

彼の漫画がどうして下手なのかというと、あれは幼児が描いた絵なのである。

彼の漫画のもうひとつの特徴はツッコミが無いという点にあるが、

ツッコミとボケの関係は実は母親と幼児の関係なのである。

蛭子能収のツッコミの無い漫画を読むとき、読者は頭の中で漫画のボケにツッコミをいれなければならない。

これは読者が母親役を演じているのである。だから作者の蛭子能収は幼児役を演じなければならない。それで幼児が描いたようなヘタな絵を描くわけである。

「ドラえもん」におけるドラえもんとのび太の関係もツッコミとボケの関係だから、

ドラえもんが母親でのび太が幼児である。しかしこの漫画の場合、ドラえもんの母親ぶりが、単なるお笑いのツッコミを逸脱しているような気がする。のび太の幼児ぶりもただのお笑いのボケを逸脱しているのではないだろうか。

この漫画に描かれているのは、実はお笑いを越えた母子関係なのではないだろうか。

ただ、このような作品は日本では珍しい事ではない。太宰治の文学作品も母子関係をテーマにしている。

彼の代表作の「走れメロス」には実は友情など描かれていない。描かれているのは主人公のメロスが演じる母親と強制によって幼児を演じざるを得ないメロスの友人の「母子関係」である。

友人はのび太のように非力で、メロスは友人の生殺与奪の権利を手に入れた。このシチュエーションは、普通の友情が母子関係に変化した事を意味する。

赤ん坊は母親が居ないと生きていく事ができない。メロスの友人はこれと同じ立場に立たされたのである。赤ん坊にとって母親は絶対である。それと同様、メロスの友人にとってメロスは絶対的存在になった。

太宰治のもうひとつの代表作である「人間失格」もやはり母子関係が描かれている。

主人公は少年時代、体育の授業中にわざとずっこけて皆を笑わせようとした。

主人公はボケを演じた、という事は幼児を演じたのである。皆は笑ったが一人だけ笑わなかった少年が居た。彼は主人公の母親役を演じる事を拒否したわけである。主人公はそう解釈した。そこで彼はこの少年を家に招待した。そして彼を膝枕し、耳掃除をするのである。つまり、こういう事である。主人公は周囲の人間とあくまで母子関係を構築したいのである。しかし幼児役を演じて失敗したので今度は母親役を演じる事によってこの少年と母子関係を結ぼうとしたのである。

太宰治は一種の変態かもしれない。

では彼のファンはどうなのか。

太宰治のファンは普通の日本人である(「ドラえもん」のファンも同様である)。

もし太宰文学に問題があるなら、普通の日本人にも問題がある。

私はこう思っている。太宰治や「ドラえもん」の作者の藤子不二雄は日本の伝統的な美的価値観をコンテンツ化したに過ぎないと。

その美的価値観とは「以心伝心」「あうんの呼吸」である。

日本人は大昔から「言葉を介在しない関係性こそ至高」と考えてきた。

それは何故かといえば、母親と幼児の関係に言葉は介在しないからである。

このように考えると、日本文化の神髄は「父性の欠如」であると考えざるを得ない。

評論家の渡辺昇一によると、日本の都市部は中世から近親相姦をしなくなったが、

田舎の方では太平洋戦争が終わる頃まで近親相姦をしていたという。

つまり、日本の田舎はわりと最近まで母系社会だったのである。

おそらく、「親がなくても子は育つ」ということわざは日本の田舎(母系社会)が都市部(父権社会)と文化的な対立をしていたという証拠なのであろう。

しかし田舎の出身のメディア関係者や「太宰治」、「どらえもん」に影響されたメディア関係者が母系社会の空気感を日本中に拡散し、現在は日本全体が父権が弱く母性が強い社会になった。

そして太宰文学がもてはやされるのも、「ドラえもん」が大ヒットするのも、現在の日本が、古代母系社会の空気感を残しているせいではないだろうか。

だとすればこの悪循環をどこかで断ち切らねばならない(この問題には女性差別が弱いという良い面があるのも事実だが、近親相姦を助長するというデメリットは大き過ぎる)。


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