結婚式前夜

【シエル視点。】

◆2時間後

「ロアルお兄ちゃんのクッキー美味しいよ!」

「お口に合って良かったです。シエルちゃんが来るとセリナからお聞きしてたので少し頑張って焼いてみました。」


私とお父さんはセリナお姉ちゃんとスラクお兄ちゃんの兄妹喧嘩から避難するようにロアルお兄ちゃんがいるこの家に逃げてきた。


でもロアルお兄ちゃんがいるからって言って、ここがお兄ちゃんの家って訳ではない。

この家はセリナお姉ちゃん達の家でお兄ちゃんは明日の結婚式の準備でこの家にいた。


避難から2時間ロアルお兄ちゃんが入れてくれた。ココアやお菓子を堪能しながら3人でお話をする。

最近のあった事など他愛のない話だ。


「それにしても二人ともまだ言い争っているの?」

「ホントに仲の良い兄弟だな!!」

「私から見たらお二人も大変仲の良い親子に感じますが?」


そう言って貰える事はうれしい物だけど、どこか恥ずかしい気持ちもあった.


「ところで、二人ともいつになったら戻って来るのかな?」

「そうですね、もうそろそろ戻ってくると思いますが。」


2人が喧嘩を始めてから結構な時間が過ぎた。

もう、時間的にも戻ってくると思ったがなかなか帰ってこない。

一体、いつまでやるつもりなのか。

本当に仲良しさんだよね。


「ただいま~。あ、シエルもここにいたのね。」


噂をすれば影、

セリアお姉ちゃんのご帰宅です。


あれ?、でもスラクお兄ちゃんの姿が見えないな?

どうしたんだろう?


「お姉ちゃん・・・スラクお兄ちゃんは?」

「お兄ちゃんは明日の結婚式の準備を少し手伝ってくるみたいよ。」


そうなんだ・・・

さっき、ロアルお兄ちゃんから聞いた話によると今回の結婚式で一番頑張っているのはスラクお兄ちゃんらしい。

本当に心の底から妹の事が大好きみたいだ。


「そうですか・・・ですが、今晩の夕食はお兄さんが作ると言ってましたが時間は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ!!仕込みの方は終わってるみたいだからすぐに完成するそうよ。まぁ、料理人を目指してるし、これぐらい楽勝でしょ。」

「お料理人?・・・」


初耳だ。

確かにスクラお兄ちゃんのお料理はとても美味しく、プロも顔負けの味付けだった。


でも、お兄ちゃんが料理人を目指してるのは初めて聞いた。

そんな考えが顔に出ていたのかセリナお姉ちゃんに心を読まれてしまう。


「シエルの顔からしてこのことは知らなかったのね。」

「うん・・お父さんは知っていたの?」

「俺か?あぁ、スクラから良く相談を受けていたからな。てっきり、シエルも知っているものだと思ってた。」


知らないよ・・

驚きを隠せない事実だったけど不思議と納得できた。


スラクお兄ちゃんがお料理をしている姿。

それはまるで我が子を愛でるように優しく、丁寧だった。

けど、なぜか仲間外れにされた気がして許せない。


「シエル・・拗ねているのか?」

「別に・・でも、仲間外れされた気分がしただけ。」

「ただいまぁ・・・あれ、何この空気?」


スラクお兄ちゃんが空気を入れ替える様にドアから元気よく入って来た


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ー夕食ー


「シエルちゃんには俺の夢を話してなかったな。」

「もぅ・・ひどいよ。私だけ仲間外れで」

「ごめんね。このハンバーグで許して。」


スラクお兄ちゃんが一番大きく美味しそうなハンバーグを私のお皿に取り分けてくれた。


「・・・仕方ないから。許します。」


私はハンバーグを口に入れ噛みしめる。

その瞬間、ハンバーグから肉汁が溢れ出す。

肉本来のうまみと香辛料などの味が交わり物凄く美味しい。


しかも私のには中にチーズが入っていてこれがまた絶妙なアクセントとなって美味しいから絶品に変わる。


「うん~!!美味しい。」


思わず笑顔になってしまう。


「はは、シエルちゃんは本当に美味しそうに食べてくれるから俺も作り甲斐があるよ。・・・うちの妹は味気ない顔で食うから味蕾が死んでるんじゃないかと心配すからな。」

「・・・」

「あら、お兄様の味付けがワンパターンだから新鮮味がないだけですが?そんなに美味しそうに食べてほしかったら新しい味でも研究したらいかが?」

「・・・」

「はは、今回のハンバーグは前回と比べ香辛料を控え肉本来の味を楽しめる味付けになっているんだけど、前回と違いが分からないとはこれは本格的に味覚がお亡くなりではないのか?」

「・・・」

「「やんのかぁ!!ゴラァァ!!」」


また始まった。喧嘩が・・・


いつもはこんなに喧嘩が多くないのになぜ今日に限ってこんなに喧嘩が多いのか?


「・・・セリナ、兄さん、食事中の戯れはお控えください。」

「「ロアルが言うなら・・・」」


ロアルお兄ちゃんの一言で2人は喧嘩を辞めて。静かに食事を始めた。

私は喧嘩の多い原因を探るために2人には聞こえない声でお父さんに話しかける。


「お父さん・・今日お姉ちゃん達ケンカ多くない?」

「・・・そうだな、多分妹が嫁に行くから寂しんだろう。」

「それにしてもだよね。」

「そうだな。少し聞いてみようか?」

「えぇ~‼いいよ。気になるけど食事中まで喧嘩されたら困るし。」

「お二人方、聞こえてますよ。」


ロアル兄ちゃんの声に驚く。

私たちの会話が漏れていたようで3人はこちらを振り向く。


「あはは、ごめんなさい。」

「別に謝る事ではありません。そうですよね」


お兄ちゃんとお姉ちゃんが頷く。

そしてスラク兄ちゃんが理由を説明してくれた。


「実はな、妹の結婚と同時に2人にこの家をあげて俺はこの家を出て行くんだ。」


また、知らされていない事を知った。


みんな私に隠し事しすぎじゃない?

でも、今回の件はお父さんも知らない様子だった。


「そうなのか。俺も知らなかった。」

「はい、別に隠してたわけでもないんですが。言う機会が無くて。」


この家を出て行くという事は兄妹は離れて暮らす事になるのかな?じゃあ今日は二人が一緒にいる最後日って事になるよね?

そんな大切な日に私はお邪魔して良かったのかな?

でも、招待状には前日に2人の家にお泊りするって書いていたから、別に私らが邪魔という訳ではなさそう。


でも、お兄ちゃんはなんで出て行くんだろう?と考えていると私の疑問を代わりに意図しないで尋ねてくれた。


「でも、なんで家を出るなんて決意をしたんだ?」

「それは俺の夢を叶える為です。」

「スラクの夢?」

「はい、俺の夢は料理人になり自分の店を持つ事、そしてその店で世界で一番うまいハンバーグを出す事です。その為にここを離れて修行したいんです。」


なるほど、そういう理由か。


「妹が嫁に行って、俺もようやく子守から解放されたの今度は自分の夢を叶える為に奮闘したいと思います。」

「そうか。それは立派な夢だ。」

「でも聞いてくださいよイグナルトさん。うちのお兄ちゃんはまだ修行先も見つかってないのに出て行くって言うんですよ。」

「えぇ!?そうなのか?」

「はい、私もロアルも修行先が見つかるまで居ても良いって言ってるのにうちの兄頑固だから聞かなくて。」


あはは、スラク兄ちゃんらしい。

でも、まだ修行先が見つかってないなら、お姉ちゃんの言う通り家に居たらいいのに・・・なんでそんなに急いで出て行くんだろう?


そう思っていると2人の会話を聞いていたお父さんはある提案をお兄ちゃんにする。


「なら、俺の住んでる宿の下にある酒場で修業しないか?丁度グライスも人手が欲しいって言っていたからな。」

「えっ!グライスって・・・まさか、あのグライスさんですか!?って事はレガメル酒場で修業できるんですか?」

「あぁ、悪い話ではないだろ?」

「はい!ぜひ、お願いします!!」


・・・なんでお兄ちゃんはこんなに興奮しているんだろう?

それにお兄ちゃんの言いぶりからグライスおじさんの事を知っている様な言い方をしているし。


気になる?


「なんでそんなに興奮してるの?修行先が見つかって喜ぶのは分かるけど。」

「あれ、もしかしてシエルちゃんは知らなかったの?レガメル酒場は全世界のグルメ店トップ20に入る程に有名なんだよ。」

「へ?世界?トップ20?」


初耳だぁぁ!!


今日はなんか初めて聞く事ばかりでさすがの私も頭が追い付かないよぉ。

世界トップ20って。おじさんメチャンコすごい人だったの!確かに出て来る料理は全部美味しかったけど・・・


え?私ってそれを毎日食べてた?めっちゃ幸せな子じゃん。

え~~~!!なんでお父さんもおじさんもおばさんも教えてくれなかったの?


「ちょっと!!お父さんなんで黙ってたの?」

「いや、黙るもなにも物凄く有名な話だからてっきり知ってるかと・・・」

「知らないよ!!」

「え?じゃあ、最近可愛い看板娘がいる店ランキング3位に入いった事も知らないの?」

「なに!そのふざけたランキング!!知らないよ。」


しかもトップ3って凄すぎる!

逆に料理の味よりそっちの方が順位上でいいのかな?やっぱり味で勝負しなといけないのでは?


まぁ、ヒルダおばさん美人さんだから仕方ないか。

凄いよヒルダおばさん・・・でも、おばさんって可愛いってよりは美人だと思うんだけどな。


「へぇ、でもヒルダおばさん凄いね!3位だなんて。」

「なに言ってるの?シエルちゃん?」

「はい?」


私は至って普通の事を言ったつもりだけどスラクお兄ちゃんは不思議そうな顔でこちらを見て来る


「可愛い看板娘に選ばれたのはシエルちゃんだよ。」

「・・・・へ?」


待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って・・・・本当に待ってなにそれ!全然知らない。


私が驚きで固まっているとお兄ちゃんが1枚の写真が載った雑誌をこちらに見せてきた。その写真にはお盆を片手に料理を笑顔で運ぶ私の姿があった。


「いつ撮ったの!!」

「え?私はイグナルトさんが取ったって聞いたわよ」

「俺も」

「私もです」

「おとうさぁぁぁん!!」


撮った犯人がお父さんと自白したセリナお姉ちゃんの後にスラク、ロアル兄ちゃんと続けて証言した。


「そうだろうな、シエル・・言いたい事は分かる。3位っておかしいよな!うちの娘の可愛さは1位を超えて殿堂入りしないといけないのに。」

「いや、そうじゃなくて。」

「でも口コミではシエルちゃんが一番だったそうですよ。」

「え?そうなのか?」

「はい、審査部は見る目がないと炎上してましたよ。」

「やはり、俺の娘が一番だったか。」

「ねぇ、本当にやめてぇぇ」


私はあまりの恥ずかしさに顔をあげる事が出来なくなって耳を真っ赤にしていた。


だから。最近お店の手伝いの時にやたらと私の事をみんなを見ていたのか。てっきりこの白髪が珍しくて見ているのかと思った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ーセリナ寝室 ベットの中ー


あの後、あまりの恥ずかしさでその場から逃げ出したくなった。その気持ちを感じ取ったセリナお姉ちゃんが一緒にお風呂に入る事を提案してくれたので逃げる様に浴室に向かう。


お風呂を頂くいて元の場所に戻ると、お父さんがまだ私の話をしていた、私は長年の経験でお父さんがこのモードに入ったら止まらない事を知っていた。


明日は結婚式当日で朝も早いのでセリナお姉ちゃんと一緒に早めに寝る事になって。

お姉ちゃんの自室に着いた私は少しお姉ちゃんとお話をしてから二人でベットに入った。


「お姉ちゃん、狭くない?」

「大丈夫、シエルは小さいから全然場所を取らないわ。」

「・・・小さいは余計だよ。」

「あはは、ごめんね。」

「でも、お姉ちゃんは明日の結婚式楽しみじゃないの?」

「そりゃあもちろん。・・・って言いたいけど実は寂しい気持ちもあるの。」


それもそうだよね。

明日結婚するって事は明日スラクお兄ちゃんが出て行くって事になるもんね。


「お父さんとお母さんが死んでから私の事を親代わりでお兄ちゃんが育ててくれのよ。」

「そう・・・だね・・・。」

「シエルもう一回聞いてくれる私とお兄ちゃんの・・・・シエル?」


お姉ちゃんの目に入ったのはスヤスヤと寝息を立てて眠る私の姿だった。私は長旅の疲れもあって眠気が限界だった。布団に入ったら、数秒で寝てしまうのは必然だ。


「寝ちゃったのね。・・・・私も寝ようかなしら、お休みシエル。」


お姉ちゃんも私につられて夢の世界に入った。

そして私は夢の中で昔お姉ちゃんが話してくれた。お姉ちゃん達の昔のお話を思い出していた。


そう、二人が仲良しの理由を知るお話を…







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