赤い白樺

川越 地星子

赤い白樺の出現

赤い白樺ができたのは2、30年前でしょうか。

私は色々重なって、大変に疲れてしまって、どこかへ逃げたかったんだと思う。

自分事なのに「思う」だなんておかしな話かと思われたでしょうけれども、あまりにくたびれていて、しかも昔事なのです。

その時、どの様な感情を持っていたか、忘れてしまったというのが、本当の所です。

私は自分の首に刃物をあてて横に引きました。

皮膚や肉や神経を切り裂く最中の鋭い痛みが、雷光の如く走りました。

しかし、その刃物が安全カミソリだったんですね。

赤い線が首に横に一本引かれただけでした。

「あれ?思っていた結果と違うな?」

と、いう事で、ザリッともう一本、首の別の所を赤くしました。

ただ、痛みと共に赤い線が増えただけ。

もう一本。

もう一本。

首の真横に赤い線を増やしていきました。

気がつくと。

私の首には無数の横向きの傷が刻まれ、赤い白樺の様になっていました。

「ハハ……。」

少しわらいました。

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