繰り返し、三つきり

 カナル型で拒んだ世界から、波の音が消えた。


「電源が入りました」


 小さな穴の奥から、女性のアナウンスが流れる。サブスク制の音楽アプリを立ち上げて、「お気に入り」のプレイリストへと指先を滑らせれば、好かない曲が鼓膜を打つ。スマホをポケットに捩じこみ、柔い砂浜に両足を沈ませる。とうに流行を過ぎた邦楽が、頭蓋の中で跳ね返っている。


 耳に挿す部分がするりと伸びた、首掛け型のワイヤレスイヤホン。うなじにそれが触れるたびに、古い思い出が蘇る。幼いからこそ健全だった医者の真似事では、プラスチックのおもちゃで君の心音が聞けたような気がしていた。


「接続が切れました」


 滔々と流れていた音が消え、事後報告のアナウンスがそれを庇い、ポケットの中で歌が籠る。スタジオで録音された君の声は、赤の他人みたいにそっけない。濡れた砂が、足指の合間にせり上がる。


「電源を切ります」


 人数過多なグループの、若きセンターは歌い続けている。調子の悪いイヤホンは、棺に入れそびれた最期の欠片だ。


 たった一つのボタンを、長く押す。


「電源が入りました」


 大好きな君の声を聴き、君が大好きだった曲を聞く。終わりのない葬送は、リピート再生と相性が良かった。

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