第19話「テストと通院と」
今日から三日間、テストが行われる。
今日は現代文、数学、地理があった。私は分からないところもありつつ、そこそこ解けたのではないかと思う。まぁめちゃくちゃいい成績がとれるとは思っていないので、そこそこでもいいのかなと思った。
そして、水曜日なので午後から通院の日でもある。私は電車に乗って、病院の最寄りの駅まで揺られる。スマホを見ることなく、ぼーっと窓から外を眺めていた。
病院の最寄り駅に着き、歩いて行く。今日は晴れてくれたのでよかった。足取りもなんだか軽い。ここのところ調子が上向きなのかなと思った。
病院に着き、診察券を出すと受付の女性に「前に二名お待ちになっております。しばらく待合室でお待ちください」と言われた。ソファーに座ってスマホを見る。涼子から『お疲れー!』とRINEが来ていたので、返事を送る。今日は通院であることも伝えた。
しばらく待っていると、奥からパタパタと大山さんがやって来た。
「小春ちゃん、こんにちはー」
「あ、こんにちは、今日もよろしくお願いします……」
「こちらこそー。あ、そうそう、今日は採血の日だけど、小春ちゃんお昼食べてないかな?」
「あ、はい、食べてないです……」
「よかった、じゃあちょっと処置室まで来てもらえるかな」
大山さんについて行く形で、処置室へと入った。大山さんがてきぱきと採血の準備をする。私はドキドキしながら待った。
「手をグーにしておいてね、ちょっとチクッとするからね」
大山さんが注射の針を私の左腕に刺す。チクッとしたが嫌な感じでもない。
「気分が悪いとかないかな?」
「あ、はい、大丈夫です……」
「そっか、よかった。手は楽にしておいていいよ」
そんな感じで、三本分血をとられたみたいだ。自分の赤い血を見ると、不思議な気持ちになる。
「よし、終わり。一、二分腕を押さえておいてね、もうしばらく待っててね」
「あ、ありがとうございます……」
私はまた待合室のソファーで待つ。今日はどんな話をするかな、そんなことをぼんやりと考えていた。
しばらく待っていると、大山さんに「小春ちゃん、診察室に入ってね」と言われた。私はいつものようにコンコンとドアをノックして、中に入る。
「小春さん、こんにちは。さぁ座ってください」
「こんにちは……失礼します」
ゆっくりと椅子に座り、橘先生の方を見る。カタカタとパソコンを操作していたが、手を止めて、
「さて、今回は二週間経ちましたが、体調はいかがでしたか?」
と、私に訊いてきた。
「あ、あの、学校は二日休みました……でも、今日もそうなんですが、少し心も身体も軽いというか、動けるというか……」
「そうですか、それはよかったです。少し上向きなのでしょうね。ただ、そういう時こそ注意です。なんでもできそうな気分になって、逆に頑張りすぎてしまうんですよね。ほどほどでいきましょう」
そう言って橘先生がまたパソコンを操作した。私のことを色々書いているのだろう。
「は、はい……あ、今日はテストでした。それも無理なく受けることができました……」
「そうでしたか、うん、いいことですね。学校の勉強は順調ですか?」
「あ、はい……わ、私はそんなに勉強ができるわけではないですが……」
「いいんですよ、結果はどうであれ、自分のペースで勉強も頑張るのが大事です。そこも無理をしない。そして、勉強を頑張った自分をほめてあげてくださいね。自分を肯定することも大事です」
橘先生が笑顔で言った。なるほど、自分を肯定することか。私はどうも自分に自信がなく、否定的だ。覚えておこうと思った。
「は、はい……あ、学校の保健の先生に、いじめられていることを伝えました……担任の先生にはまだで……」
「なるほど、一歩進みましたね。うん、いいことです。保健の先生は何か言っていましたか?」
「は、話したことは誰にも言わないと……あと、私のタイミングで、担任の先生に話すといいと……」
「そうですね、小春さんのペースが一番大事です。学校の先生に伝えるのも大事ですが、無理をしてはいけません。きついと思ったら、先送りしましょう」
そう言って橘先生が手を出してきたので、私はそっと橘先生の手を握った。
「……少しだけあたたかいですね。ここに慣れて、緊張も少なくなってきたのでしょう。先ほども言いましたが、動けるようになってきた今が注意です。なんでもできそうな気分になった時は、一旦立ち止まって、よく考えてみてください。周りのことをよく見るのも大事ですよ」
「は、はい……分かりました」
「お薬は同じものを出しておきますね。もしかしたら逆に心と身体が重くなる時もあるかもしれませんが、自分を受け入れて、焦らないようにしてくださいね」
「は、はい……ありがとうございます」
橘先生と話して、また二週間後、ここに来ることになった。ちょっと調子が上向きなのは嬉しいことだが、橘先生の言う通り、そういう時こそ気をつけておこうと思った私だった。
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