燐陽鬼譚

七夕真昼

序章

プロローグ

古い訓練場か、それとも拷問部屋か。



赤毛の少年が壁にもたれるようにして座っていた。その身体はあちこちが傷だらけで、血が滲んでいる箇所もある。



その少年を真正面から見下ろす人物は顔を仮面に隠し、黒い衣装に全身を包んだ立ち姿から年齢はおろか、性別すら分からない。




「……。」


「……。」




両者の静寂を破いたのは、第三者の足音。




「忌まわしき赤燐の祖。すべての元凶。そんな血は根絶やしにすべきだ。」




冷ややかな言葉と共に歩いてきた男が、項垂れる少年の前で足を止めた。二十代半ばといったところだろうか、糸目がちな両眼と鈍い金髪が特徴的だ。




「──そうだろう、神上太陽かみのうえたいよう。」




名前を呼ばれても、少年は顔を上げようとしない。もしくは、気を失っているのか。しかし構わず、男性は言葉を続ける。




「餓鬼が蔓延はびこる根源、厄災の源と呼べる神上家は、その身をもって償うべきだ。違うか? 原初の大鬼よ。」




少年──太陽が問いかけに答える気配は、ない。




「……。」




男性と共に太陽を見下ろす黒装束の人物は、黙ってそこに立つだけ。相変わらず響くのは、冷たい空気を纏った男性の声一つだ。




「お前の力は混沌を招く……だからここで消えてもらおう」


「嫌です。」




今まで項垂れていた太陽が、バッと顔を上げる。髪と同じく赤い瞳が、真っ直ぐに男性を見つめた。




「俺死にたくないんで! それに俺、捜してる人いますし!」




先ほどまでの静けさが嘘のように、ハツラツと太陽が話す。その声も表情も、ギラギラと輝いていた。




「その子に会うまでは絶対に死にません!」

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