魔法の国

まなじん

1小さな星

雅N

その日、私の演劇に対する認識が覆った。


雅N

始まりは、小学校の時に祖母に連れて行ってもらった小さな劇団での話だった。もう名前も覚えてないけど、演劇が好きな社会人が集まって各々の想いで舞台を作りあげる本当に小さな集団。まだ小さかった私は、開場から上演中までずっと退屈だった。内容が難しくて理解できないし、ダンスや歌があるわけでもない。真面目な会話劇だった。


「(小声で)ねえばあちゃん、まだおわんないのー?」

祖母

「(小声で)まだよ。ごめんねぇ…つまらないでしょ。雅ちゃんも喜ぶと思ってたけど…ごめんね」

「むぅ…」


雅N

祖母が悪くないのはわかっていたはず。うざったそうに舞台におもむろに目を向けた。なんの意味もなくキャストたちを一人一人眺めていると、ある人と視線がかち合った。気がついたら、私はその人に目を奪われていた。役にならなきゃと必死だった周りと違って、その人の目は、というか表情は微笑みかけていた。もしかしたら気のせいかもしれない。丁度その人の役が正面を向いて何か言うシーンだったから。でも、一瞬だけ…そう、一瞬だけ……輝きを見てしまった。


祖母

「(小声で)どうしたの?びっくりした顔して」

「や…なんでも…」


雅N

その公演は私が放心状態の間にいつの間にか終わっていた。ロビーコールと呼ばれる観客を会場から送り出すもの、所謂客出しの時に私に「なにか」を与えてくれた人のもとへ駆け寄り、目の前で言ったのだ。


「あのっ、わたしもっ、あなたのようにっ、なれますかっ?」


雅N

言葉に詰まりながらも自分なりに懸命に質問した。


「……貴方はすごいね。もしかして、私と目が合ったような気がした子がいたのは、貴方だったりする?違ったら違ったでいいんだよ?」

「え…やっぱり、あれは気のせいじゃなかったの…?」


雅N

その人はふ、と優しく笑うと「らしいね!」と元気な笑顔を見せた。それにつられて私も一緒に笑った。

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