第30話 権利が与えられたわ

「おめでとう、二人とも。あなたたちの見習いとしての働きが認められて、試験を受ける権利が与えられたわ」


 見習い依頼の報告に行ったところで、受付嬢から朗報を伝えられた。

 冒険者登録のときからお世話になっている若い女性で、名前はイレアというらしい。


「見習いになって、まだたったの二週間。まさか、こんなに早く試験までコマを進めるなんて、本当にびっくりよ」


 恐らくポッツの熱烈な訴えもあって、過去に例のない早さでの受験が認められたのだろう。


「もちろん、まだ正式な冒険者になれると決まったわけじゃないわ。試験は実戦的なものだから、冒険者として最低限の戦える力があるかが問われるわ」


 最低限の戦える力があるか微妙なEランク冒険者もいるよねと思ったが、あえて口には出さなかった。


 試験は最短で明日、受けられるという。

 元より早く冒険者になりたかった僕たちは、その最短日程にしてもらった。


 明日の午前中、冒険者ギルドに来ればいいらしい。


 窓口を後にしたところで、ファンが不意に口を開いた。


「セリウスはすごい」

「?」

「私を奴隷から解放し、助けてくれたわ。見習いの仕事だって、ほとんどセリウスの力。一つ年下なのに」

「見習い仕事は、戦闘力の要らないものばかりだったしね」

「……手合わせもまだ、一度も勝ててない」


 ファンがジト目で睨んでくる。


「私も頑張らないと」


 ひょんなことからしばらく行動を共にしているが、寡黙な彼女は自分のことをまったく語らず、僕は彼女の出自も何も知らない。


 ……まぁ、僕も自分のことを何も言っていないので同じだが。


「もっともっと強くなってみせるから」


 そう誓う彼女の瞳からは、十一歳の少女のものとはとても思えない、獰猛なまでの強い意志が感じられた。

 過去に迫害されやすい獣人ゆえの何かがあったのか、それとも……。


「じゃあ、今からまた手合わせでもしようか。試験がどんな内容か分からないけど、実戦的なものだって言ってたしね」

「今度こそ一矢報いてやるわ」


 その宣言通り、ファンは成長ぶりを見せた。


「段々と慣れてきてるね」


 当初は五本の剣を相手に苦戦していた彼女が、明らかに対応できるようになってきているのだ。

 四方八方からの斬撃に対し、獣人特有の敏捷性と柔軟性で完璧に受け流していく。


 そのとき一瞬、僕はファンの姿を見失ってしまう。


「っ、消え――」


 気づいたときにはすぐ目の前で、剣を振り上げていた。

 僕を護る五本の剣は、彼女の後方に置き去りだ。


「貰った」


 しかしこちらには【飛翔シューズ】がある。

 初めて遭遇したときと同じように、これで後方へ一気に飛び退る。


 だがそれはファンに読まれていた。

 斬撃のモーションはフェイントだったようで、せっかく取った距離を即座に詰められてしまう。


 ガキイイイインッ!!


 ファンの剣は、僕の目の前で止まった。

 止めたのは宙に浮かぶ盾だ。


「……盾?」

「魔力で動かしてるだけだから、当然、剣以外もいけるよ」

「さすがにズルいわ」

「別にズルくはないでしょ。それよりさっきのは何? いきなり消えたように見えたけど」

「縮地よ」


 縮地!

 あの誰もが憧れる、一瞬で相手との距離を詰める走行技!


 まさか現実でそれを見られるなんて、さすがはファンタジー世界だ。


「このままじゃずっと勝てないと思って、習得したのよ」

「僕もそれやりたい! どうやってやるんだ!?」

「……教えない」

「ズルい! じゃあ、やり方だけでも教えてよ!」

「嫌よ」

「何で!? やり方くらい良いじゃんか!」

「ダメ」


 少なくとも僕に勝てるようになるまでは、絶対に教えたくないらしい。

 じゃあ、ワザと負ければ……と思ったが、割と鋭いタイプなのでバレるだろう。


 結局その後も僕は剣と盾を駆使して、ファンを完封。

 縮地を教えてもらうことはできなかったのだった。





 翌日。

 僕とファンは冒険者ギルドにやってきていた。


 受付嬢のイレアに案内されてギルドの地下へ。

 そこには体育館くらいの広さの何もない空間があった。


 普段は訓練場として利用されているというここが、試験会場らしい。

 部屋には二人の男女が待ち構えていた。


「試験監督を務めるギルド職員のパロンです」

「オレが試験官をさせてもらう、Cランク冒険者のギエナだ。話には聞いてたが、二人とも随分と若ぇな」


 パロンは二十代半ばほどの男性で、ギルド職員らしく真面目そうな印象である。

 一方のギエナは二十歳くらいの女性。健康的に日焼けした長身の美女で、その身長よりもかなり長い槍を携えている。


 冒険者の情報を護るためか、試験には最小限の人数しか参加しないようで、この広い会場には彼らに僕とファンを含めて四人だけだった。


 パロンが試合内容について説明してくれる。


「これより一人ずつ、試験官のギエナ氏と戦っていただきます。時間は五分。最後まで戦いを継続することができれば合格とします。ただし、途中で明らかに求める基準に満たないと私が判断した場合、その時点で強制終了させていただくこともありますので、あらかじめ承知おきください」


 物凄くシンプルな内容だった。

 分かり易くていいね。


 と、そこでファンが手を上げた。

 何か質問があるらしい。


「どうぞ」

「こっちが五分以内に倒した場合は?」

「……あ? おいおい、お前、舐めてんのか?」


 ギエナのこめかみに青筋が浮かび上がった。

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