第7話 あれぇ?どうなってるの??

その後、他チームの試合を観戦したりしていた。どうしても狭いキャンパスで過ごし、部活動での縦のつながりもある。どのチームにも誰かの友人や先輩、後輩がいるわけである。


みんなを応援しながら、第2回戦の先発メンバーをまたくじ引きで決めた。


次の先発メンバーは、なるさん、ふみどう君、なかっちゃん、重さん、もっつん、たっしー、しょうた、みやさん、そして俺、ということになった。


対戦相手は「軽音楽部有志」である。女性は多いが、長老はいない。向こうのキャプテンと、こちらの監督 なるさんとでジャンケンを行ない、今回は先攻となった。


ピッチャーは重さん、キャッチャーは初戦と同じ理由で、しょうたにお願いした。あと、俺が「ライパチ君」なのは既定路線である。初戦と同じように、なんとなく適材適所で守備位置、打順を決めた。


軽音楽部には女性メンバーが4人いたので、3-2で試合開始となった。


初戦と同様に、「手に汗握る」とは程遠い、ゆるーい感じで試合が進んでいく。打順は8番なので、しばらくは回ってこないはず。当然軽音楽部にも同期がいる。お互いに「がんばろうぜ~」という雰囲気で、回は進んでいった。


俺が守備についているときは、ずっと心の中で、「ボールが来ませんように。ボールがこっちに来ませんように」と祈り続けていた。祈りが通じたのか、ライトにボールが飛んでくることはなく、エラーをした恥ずかしい姿をみんなの前でさらさずに済んだ。バッティングも「いい感触」と思った打球が、野手の真正面だったり、逆にボテボテのゴロがうまい具合に転がってヒットになる、など、いかにも「レクリエーションとしての球技大会」らしい試合になった。


もちろん時には、相手チームがきれいにダブルプレーを決めて、「おぉっ!」となることもあれば、我らのチームでは、しんちゃんが、2塁ランナーの時に、もっつんがセンターオーバーのヒットを打った。先に述べたように柵がないので、外野手を打球が超えてしまえば、グラウンドの果てまでボールが転がってしまう。


しんちゃんも一生懸命走っていたのだが、もっつんの足の方が速く、ホームベース前では、しんちゃんの真後ろにもっつんが来ていた。前に走っているランナーを追い越すと、二人ともアウトになる。外野からはボールが返球されてきている。思わずもっつんが


「しんちゃん、走れ!」と叫んだのには、みんな大笑いだった。


両チームとも、それなりに打ち、それなりに守り、そこそこエラーをして、試合を終えた。7-5。いい勝負だった。


「お疲れさま」とお互いに挨拶。彼らは今晩もライブがあるそうだ。これからリハーサルをするとのこと。若いなぁ、と長老組の俺は思うのであった。


出場チームが10チームなので、2回勝てば、もう準決勝だ。準決勝の対戦相手は…えっ!?6年生チーム?


6年生は2週間前に「鬼の卒業試験」を終えたところだ。数日前に掲示板に成績結果が張り出してあったが、「鬼の卒業試験」と呼ばれるとおりの試験結果だった。数年後に俺たちもその立場になるんだ、と思うと恐ろしい。しかし、どうして先輩方はこの時期に球技大会に出たんだろう?


6年生チームのキャプテンは、三ちゃんの部活の先輩だった。


「先輩。この時期にどうして球技大会にでているんですか?」

「あのな、ずっと自習室にこもって国試の問題集を解いているだろ。模試も受けているけど、その結果を見たり、問題をやり直していると、どんどん気分が沈んでくるんだ。卒試の結果が掲示されているの見たろ?もうストレスがマックスだよ。たまには青空の下で、ワイワイと楽しみたいんだ。君らも6年のこの時期になったら、絶対わかるよ」


先輩の言葉は重い。とはいえ、1日を球技大会に使える、という心の余裕もお持ちなのだ。


またキャプテン同士でジャンケンをして、先攻、後攻を決める。なるさんはジャンケンに負け、後攻となった。


さすがに6年生のこの時期になると、長老組は本当に余裕がないそうで、女性は現実的に「勉強」を選択した、とのことで、加点無しとなった。6年生チームは総勢10人と、何とかギリギリ人を集めたようだ。


先輩方は、もっと早くに負けて、また自習室に戻るつもりだったらしく、「早く負けて、勉強に戻ろうぜ」という雰囲気が漂っていた。


そんなわけで0-3で試合開始。ただ、試合が始まると、日頃のストレスを晴らすかのように、ぶんぶんとバットを振り回す。ピッチャーは兄やんが先発だったが、三振もあれば、長打もある。随分と荒れ狂った試合になった。


先輩方も、俺たちもへとへとになったが、奇跡的に5-7と貧血バッファローズが勝利した。


最後の整列、礼の後、先輩方から、口々に「楽しい時間、ありがとう。これでまた勉強に戻れるよ」といっていただいたのは、ありがたい半面、明日は我が身か、とメンバー全員が恐ろしく感じていた。

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