第50話 莉奈の手にハンカチ

 すると、それに気づいたのか、亮平りょうへいがさらに言葉を続けた。


「たぶんあおいも感謝しているはずだ。葵も健人けんと莉奈りなの関係に気付いていた。葵は何度も別れたいと伝えたそうだが、健人の方が拒んでいたらしい。金づるである葵を手放したくなくて」


「誰から聞いたんだ?」

「葵から直接聞いた。あの山荘近くのバス停で……」

「そうか」

「次いでだから、これも話しておく。莉奈の手にハンカチが握られていた」


 ハンカチ?


「警察に莉奈のハンカチかと訊かれたから、たぶんそうだと答えたが、あれは違う。葵のものだ」


 直樹はそれを聞いてハッとした。

 獣道の途中に高低差の激しい箇所があると葵に伝えたところ、「見つけたらハンカチで目印をつけておく」と言っていたことを思い出したのだ。


 そのハンカチだろうか。

 だが、莉奈がわざわざそのハンカチを外すだろうか。再びその道を通るかもしれないのに。


 そういえば山を下りる途中、山中で揉み合っているような物音を聞いたような気がする。あれはもしかして……。

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