第48話 莉奈と健人

 莉奈りなの通夜葬儀は遺族の意向で身内だけで執り行ったという。もちろん亮平りょうへいは婚約者として参列した。

 今もまだ辛い状況だというのに、亮平はそんな様子をひとつも見せない。強い男だ。

 

 健人けんとの遺体も見つかった。飲酒運転による自損事故として片付けられた。

 あおいは心身ともに疲弊し、実家で療養している。


「それで、俺は……?」

 と直樹なおきが尋ねると、亮平が救助までの一部始終を語った。


 商店の女性が警察に連絡を入れ、すぐに来てもらったのだが、この辺りを熟知している一人の警察官が山に入ることを渋ったそうだ。それでも仕事だと割り切り、車両に食料や飲料水を積み込んで私道に入った。案の定、山荘に辿り着くことなく山中をぐるぐると周り、日が暮れる頃にようやく抜け出すことができたらしい。


 翌日も救助に入ったが、やはり山荘には辿り着けなかった。

 お盆が明け、亮平は警察と共に山に入り、山荘前で意識を失っている直樹を見つけたという。


「迷惑をかけて、すまない」

「別に直樹が謝ることじゃないだろ?」


 亮平のその言葉が胸にちくりと突き刺さった。

 そうじゃないんだ、と喉元まで出かかって急いで飲み込んだ。

 本当のことは言えない。言えるはずもない。最初からこうなることを想定して、皆を山荘に誘った、などとは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る