第33話 鬼ごっこしましょう

「うわぁぁぁっ!」


 直樹なおきは絶叫し、その場に腰を抜かしたのだった。

 懐中電灯が手からこぼれ落ち、地面をごろごろと転がった。

 咄嗟に地面についた掌に砂利が突き刺さり、顔を歪めた。


 女の子がじわじわと迫って来る。

 直樹は尻もちをついたまま、両掌を使って必死に後退りした。


「来るな、来るな、来るなぁぁぁっ!」


 だが、女の子はそれを拒絶とは受け取らなかった。鬼ごっこで逃げていく子どもたちの嬉々としてたわむれる声と認識しているらしい。

 女の子は目と口を大きく開き、


『ウケケケケケッ!』


 と奇声を上げたかと思うと、直樹の目の前までぐわっっと顔を近づけ、にたりと笑ったのだった。


『みぃぃぃつけた!』


 直樹は恐怖に凍り付き、完全に言葉を失った。

 女の子はふわりと体を浮かせると、真っ白なワンピースをひらひらと揺らし、


『おぉにごっこ、しぃましょ。おぉにごっこ、しぃましょ』


 と調子はずれに歌いながら、直樹の傍らを通り過ぎていく。

 直樹はそれをただ呆然と視界の片隅に見ているだけであった。

 勇んで山荘を飛び出しておきながら、この失態だ。

 その無様な姿を木々が嘲笑うかのように、かさかさと音立てている。


 だが、直樹は気付いた。

 あの子があおい亮平りょうへいたちの元へ向かっていることに――。

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