第18話 まもなくバス通り

 バス通りまでの道は右側が斜面に、左側がなだらかな崖になっている。

 高木が生い茂っているので崖下は見えないが、ガードレールがないこともあり、亮平りょうへいが窓の外を覗きながら、ひやひやしている。


「悪い。接触しない程度に、右側寄りで」


 と直樹なおきが優しく指示を出す。

 車体の大きなワンボックスカーではなくて良かった。軽自動車なら、この狭い車道でも多少の余裕がある。


 慎重にカーブを曲がると、直樹と莉奈りなはごくりと息を呑んだ。

 つい先ほど、あの子と出会った場所がもうすぐ目の前に来ていたからだ。


 それを皆に言うべきか言わざるべきか。

 ふとバックミラー越しにあおいの顔を覗き見たら、ひどく強張っているように見えた。ここで、あの子の話をしたものなら、葵をパニックに陥れてしまうかもしれない。


 直樹は黙ってその場を通り過ぎるのを待った。

 車が徐々に曲がり角へと近づく。


 じゃり、じゃり、という足音は聞こえないか。

 フフフ、という笑い声は聞こえないか。

 白いワンピース姿のあの子はないか。


 直樹は全神経を研ぎ澄ませ、辺りを窺った。

 だが、それらしき気配はない。

 ひとまず、ほっと安堵の息を吐くと、葵に伝えた。


「そこを左に曲がればバス通りだ」


 そして、直樹は祈るように先を見つめた。

 頼む、バス通りに出てくれ。

 頼む、頼む、頼む。

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