第16話 皆で車に乗り込む

「本当だ。五、六歳くらいの女の子だった。直感でヤバいと思った。俺と莉奈りなはその子から逃げるように坂道を下った。ひたすら下ったのに……、ここに辿り着いた」

「この時間にそういう冗談は悪趣味だって!」


 不快感をあらわにする健人けんとに、莉奈が「本当なの!」と今にも飛び掛からん勢いで言う。

 直樹なおきは右手でそれを制止し、話を続けた。


「警察に相談しようと思ったんだ。だが、スマホが使えなかった。電話も、ネットも……」

「さっきまで普通に使えただろ?」


 健人が苛立ちながらシャツの胸ポケットからスマホを取り出し、その画面を見て絶句した。

 亮平りょうへいも同様にスマホの画面を開き、「マジか……」とわずかに声を震わせながら呟いた。


 あおいは何もできず、ただ怯えているだけだ。キャンプライトの明かりの下でも、顔色の悪さが伺える。

 その間にも、莉奈は黙々と荷物を片づけていた。


「ここを出よう。皆、酒を飲んでいるから、一台の車で移動しよう。残った車は後日、どこかに依頼して、運んでもらえばいい」


 直樹の言葉を亮平と健人は咀嚼しながら、必死の形相で帰り支度する莉奈を見ていた。

 数秒、数十秒の沈黙の後、どちらともなく立ち上がった。


「帰ろう!」


 テントもバーベキューコンロも何もかもを置いて、貴重品だけを抱え軽自動車に乗り込んだ。

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