第10話 笑い声が聞こえる

「怖いこと言わないでよ!」

「別に脅すつもりはないよ。でも……。いや、気のせいか。悪い」


 直樹なおきは「こだま」だろうと自分に言い聞かせ、再び歩き始めた。

 だが、やはり聞こえるのだ。直樹と莉奈りなの足並みに揃わぬ小さな足音が。


 じゃり、じゃり。


 莉奈も気づいたらしい。

 ごくりと息を呑み、「気のせいだよね?」と上ずった声で直樹に同意を求めた。

 直樹としてはそれに応じたかった。だが、背筋に走る悪寒が、直樹の言わんとすることを全てかき消した。


 明らかに動物の足音ではなかったのだ。

 だとすれば、人の足音なのだが、こんな夜更けに人が歩いているとも思えない。


 近くに民家はあるにはあるのだが、片手で数える程度しかないのだ。

 亮平りょうへい健人けんとが二人を驚かそうとこっそり後を追ってきたのではないか。そう都合よく考えてはみたものの、明かりもなしにここまで来るとは思えなかった。


「ねえ、さっさとバス通りに出よう?」


 莉奈が直樹の腕にしがみついた。

 普段であればすげなく振り払うところだが、今の直樹には莉奈の気持ちが痛いほどに分かった。


「そうだな」


 莉奈を安心させるように、そして、自身を落ち着かせるように冷静に答えて、ゆっくりと一歩を踏み出した。

 その時だ――。


『フフフ……』


 山中に突如、子どもの笑い声が響き渡り、直樹と莉奈はびくっと肩を震わせた。

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