第6話 入院中にあったあれこれの話① 黒歴史編

 今回は第4話の続き『左膝人工関節置換術』を受けた2日後の話をしようと思います。


 最初に断っておきますが、これは黒歴史——お食事時には読まない方がいいかも——な、お話です。悪しからずご了承ください。


 さて、手術中に意識が戻る、というハプニングには見舞われたりもしましたが、無事に手術を終えた私はナースステーション近くの個室に入ることになりました。


 点滴に血抜き用の管に尿道カテーテル、その他いろいろと体中管だらけになってベッドに寝かされている私。


 痛みに悶え苦しみ発熱したりもしましたが、2日も経つと薬の効果も相まって随分と落ち着いてきます。


 そんな訳で、逆にジッとしていることの方が苦痛になってきた頃、やっと左膝に刺さったままだった血抜き用の管を始め、諸々の配線を外してもらえることになりました。


 体から伸びる色々なチューブのせいで、ベッドに縫い付けられていた私は、ここぞとばかりに看護師さんに『尿道カテーテルも抜いてもらえないか』と訴えました。


 すると看護師さんは『身動きが取れないでしょうから、そのままの方が良いのでは?』とおっしゃいます。


 しかし、『尿道カテーテル』を経験したことのある方ならお分かりかと思いますが、あれってずっーと尿意を感じて凄く気持ち悪いんです。(注・あくまでも個人の感想です)


 私は看護師さんの意見を押し切って、尿道カテーテルを抜いてもらいました。


 (ああ〜〜〜!! スッキリしたぁーー!!)


 ということで、これからは自力でおトイレ……失礼、『お花畑』に行かなければなりません。


 そこで、移動用の車椅子が用意されたわけなのですが、その車椅子は、左足を伸ばしたまま座ることができるよう、脚乗せ部分が前に突き出た特殊な形をしていました。

 前方に突き出た脚台のせいで、とても取り回しの悪そうな車椅子です。


 ちょっと早まったかも?……と、内心冷や汗をかいていた私に「こんな車椅子になりますけど?」と言いながら、看護師さんが私の足をチラリと見てきました。


 その仕草に『1人じゃ車椅子に乗れないでしょ?』と言外に言われたような気がした私。


 (ぬ!? もしかして、今、私は試されている!?……フッ、良いでしょう。その勝負、受けて立ちましょうぞ!)


 変な負けん気を起こした私は、包帯でグルグル巻きにされた左足を右足で掬い上げ、サッとベッドから降り立つと、車椅子に腰掛け、再び右足で左足を掬い上げると素早くフットレスト(脚台)に乗せて見せました。


 (伊達に今日まで、この足で日常生活を送ってきたわけではありませんのよぉ〜。このくらいの動作、朝飯前ですわぁ! お〜っほほほっ!)


 もちろん声には出しませんでしたが、私はそんな気持ちで看護師さんをドヤ顔で見つめました。


 私の足捌きを見た看護師さんは『器用ですね……』と驚いています。さらに、『これなら、お一人でも大丈夫そうですね』と、お墨付きまで貰った私。


 (うふふ、俺tueeeの主人公になった気分だわぁ〜!)


 …………

 ……はい、すいません。

 私はこの時、調子に乗っていたんです。この後、その報いを受けることになります……


 足(マイカー)を得て、行動範囲の広がった私は、久しぶりの自由を満喫するように、無駄に病棟の廊下を周回しました。(はた迷惑なので、決して真似しないでください)


 気が済んだ私は、ウキウキしながら看護師さんに指定されたナースステーション脇にある『お花畑』へ向かいました。


 しかしそこで私が見たものは……

 『扉』の代わりに『アコーディオンカーテン』が設置された『防御力ゼロ』の花園……。


 えぇ、ここぉ……?


 古い病院だったので仕方ないのですが、薄暗く陰気臭いその『お花畑』にテンションが下がってしまいました。


 が、確かに車椅子——しかも改造車(?)——ごと入れそうな個室はここくらいです。


 仕方ない、サッサとお花を摘んでしまいましょう……


 こうして無事(?)にお花を摘み終えた私。さあ、お水をあげ流しましょう……となった時、その手がハタと止まりました。


 なぜなら、タンクの横にも便座の後ろ側にも、どこにも水洗レバーが無いのです!!


 あ…あれ!? レバーが無い……

 そうか! 自動で流れるタイプなのね!


 そう結論付けて立ち上がってみましたが、神秘の泉(?)はシン…と静まり返ったままです。


 焦り始めた正にその時、アコーディオンカーテンをボフボフと叩きながら、1人のお爺さんが『おぉ〜い、まだかぁ〜』と私を急き立ててきたのです!!(男女兼用)


 あ…あああ、あかーーん! このままでは、どこの誰とも知れないおんじに、秘密の花園を覗かれてしまうぅっ!!(いや、ホントこんなお話ですみません……)


 半ばパニックになりながら、素早く辺りを見回すと、壁にオレンジ色のボタンを発見!


 あった!これかぁー!

 アタタタタタタ!ォワッタァー!!(カチカチカチカチカチカチ……)


 もう、これしか無い!と思いこんでいた私は、そのオレンジ色のボタンを、一子相伝の暗殺拳よろしく、高速連打いたしました。


 ……お察しの良い方なら、もうお気付きかと思います。


 そうです、私『緊急呼び出しボタン』をこれでもか!ってくらい連打してしまったのです。


 すると……


 (……バタバタバタ、バタバタバタ、シャアーーーッ!!)

「どうしましたっ!? 大丈夫ですかっ!!」


 血相を変えた看護師さんがすっ飛んできて、勢いよくアコーディオンカーテンを開け放ってしまいましたとさ♡


 おしまい♡





 (追記)

 あ! その後、無事に水洗ボタンを見つけることはできましたので、お水はちゃんと流しましたよ!

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