第43話 梟の襲撃
『砂漠の神殿』。招かざる訪問者に、和やかな雰囲気が一変する。
手を叩く音が聞こえたため、そちらに注目すると、茶髪を短く刈り上げた男が、他の仲間、二人とともに広間の中へ入って来た。
それは、ミードル川を豪華客船で
そして、その中には、今となっては二人の関係性が分からなくなったが、相方の女性。眼鏡をかけて知的な雰囲気を醸し出すパメラの姿もあった。
「いやぁ、千年の恋を成就させるとは・・・恐れ入った。久しぶりに、面白いものを見させてもらったぜ。さすがは、レイヴンだな」
口調はやけに馴れ馴れしいが、当然、親しくする間柄ではない。
ウォルトやパメラは、レイヴンが敵として追いかけるミューズ・キテラ。彼女が関りを持つ組織『
しかも、彼らがこの場に登場したという事は、『森の神殿』が被害にあった時と同様、狙いは神殿の秘宝『
何としても、その野望は阻止しなければならないのだ。
それにしても特別な方位磁石を持っているわけではない。よく『砂漠の神殿』に辿り着いたと、レイヴンは感心した。
「砂漠の民の案内もなく、よくここまで辿りつけたな?」
「ん?俺のスキルを忘れたのか?俺はお前らの匂いを辿って来ればいいだけ。案内、助かったぜ」
そう言うとウォルトは『
確かにその常人離れした鼻の良さで、豪華客船で起きた事件を解決したのだが、まさかあの砂嵐の中でも鼻が利くとは思わなかった。
「それじゃあ、私のスキルも覚えていますよね」
そこに深緑のフードを被る森の民のアンナが、会話に割って入る。彼女は『森の神殿』を荒らされ、秘宝『
すぐに鉄笛を吹き、『
「そんなの対策済みに決まっているでしょ」
『
手の内を知るパメラが呪文を唱えると、ウォルトの周囲にだけ風が巻き起こり、音を遮断する。
これで、
目にも止まらぬ速さで走ると、祭壇に置いてある『
寸前のところで、レイヴンが壁を作り、貴重な宝石が盗まれるのを防いだ。
急停止し、立ち往生したところ、すかさずメラの
「私がいるのも忘れないで」
派手な動きをするウォルトに注目が集まる中、カーリィが白い紐を伸ばし、パメラを捕らえようとする。彼女のスキルを抑え込めば、
『
だが、油断をしていなかったパメラは風を巻き起こして、カーリィの紐を自身に近づけさない。
「そう、確かにあなたのスキルは厄介よね。・・・生きているのは、本当に計算外だわ」
パメラの目算では、精鎮の儀式でカーリィが命を落とした後、『砂漠の神殿』の広間に突入するつもりだったのが、計算が狂ってしまったのである。
それほど、『
「ちょっと、あなたも黙っていないで、少しは手伝ったら・・・ってどうしたの?」
パメラは、強敵を前にして、一緒に来たもう一人の仲間に参戦を促す。ところが、その肝心の男の体が震えているのを訝しんだ。
その長髪の男は、両手を広げると興奮したように大声で叫ぶ。
「な、なんて美しいんだ!!!」
その様子にウォルトは吹き出し、パメラは頭を抱えた。
この男、名をロイドというのだが、組織の中でも女性に惚れやすいというので有名。
今回、サラマンドラを相手にするため、この男のスキルが必要だと連れてきたのだが・・・
「僕の名はロイド。よければ、君の名を教えてほしい」
長髪をかき分けて、カーリィにウインクする。本人は決めているつもりなのかもしれないが、悪印象しか与えなかった。
この調子が狂う相手に、カーリィが攻撃を躊躇っていると、代わってメラが
「残念ながら、姫さまは売約済みです」
「何だって!!・・・いや、そう言う君も美しい」
「なっ」
今度はメラにも求愛のポーズをするロイド。何とも節奏がないが、驚いたのは別のことだった。
ロイドに刺さった
「僕のスキルは『
「だから・・・の意味が分からないけど、遠慮しておくわ」
「私もです」
女性、二人に振られるロイドだが、少しもめげない。
不用意にも、そのまま近づいていくのだ。
「みんな初めは、そう言うのさ。でもね、僕の体の中に取り込まれると、考えが変わる」
そんなロイドに対して、メラはしつこく
紐を介した場合、『
どうやら、ロイドはそのコンマ何秒の世界で、体内に吸収しているようだ。
「それ以上、近づいては駄目よ」
ここで、パメラがしっかりと釘を刺す。本人に捕まった場合はさすがにカーリィのスキルの能力が上回るからだ。
「いくら、あなたの能力でもカーリィに触れることはできないわ」
「ああ、そうか。本当に『
するとロイドは、標的を変えることにする。この女性たちの意中の男を始末すればいいと考えたのだ。
そして、それは、おそらくアイツ。
「ウォルト、その男、僕に譲ってくれないか?どうやら、恋敵のようだ」
勝手に恋敵にされてはたまらない。文句を言おうとするレイヴンだが、それより先にウォルトが大笑いして、承諾した。
「いいぜ。ただ、お前が思っている以上に手強いからな」
「なに、能力には驚くけど、戦闘向きとは思えない。楽勝だよ」
何か言いたげなウォルトだが、それ以上は口をふさぐ。ロイドの強さも十分に理解しているからだった。
「俺のスキルが戦闘に向かないって言うが、それはお前も同じじゃないか?」
『
「いいや、要は僕が君を捕まえれば、それでゲームセット。僕の体の中に永遠に閉じ込めておいてあげるよ」
なるほど。そう言われると、確かに驚異的なスキルだ。
ロイドは、なりふり構わず間合いを詰めればいいだけなのである。
「しかし、人間一人を吸収すれば、容量が一杯になるんじゃないか?」
「そんな事ないよ。『
「どんな物でも、永遠に?本当だな」
ロイドの言葉を受けて、レイヴンはニヤリと笑うのだった。
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