戦闘記録9

 見通しがいい高原を一機の小さめの装甲車(50メートル級個人用装甲車)が走っていた。それを遠くから眺める三人がいた。


「次の獲物が来たようだな」

「へっ、バカな奴だぜ。こんな所で一人なんてな」

「いつもの事だが油断すんなよ。じゃ、撃ち込むぞ」


 人族の男が対物ライフルのような銃で射撃を行う。そして次の瞬間には、装甲車の前に着弾し、地形を抉る。



「じゃ頼んだぞお前ら」

「おうよ!」

「任せときな!」


 そう言い二人の機人族が瞬動で急停止した装甲車に接近、即座に結界ごとキャタピラを破壊し、中に侵入しようとした。


「早いな~」

「ドローンか」


 そこに複数のドローンが投入され、二人に対し的確に光線による射撃を行う。


「こっちは任せとけ」

「頼んだぜ兄ちゃん」


 兄の方が残り、電磁結界を張って光線を逸らす。その隙に弟が中に入り、制御室へと向かうために能力を発動させた。



「こっちぃッ!?」


 通路を走りながら車両の情報を抜き取ろうと、なんら奪い取ろうとしたようだが、その前に壁から発生した光線に邪魔される。そして次の瞬間には、目が焼けるほどの光に包まれて、弟は近くの部屋に転がり込んでいた。


「やべぇ、死ぬところだった」

「死んどけばよかったのにね」


 背後から鎧のようなロボットに、ハルバードを脳天目掛けて振り落とされる。それを瞬動で避けたが、追撃の横なぎで壁に叩き付けられる。


「機人族?機械族かな?」

「電脳族よ。盗賊君」


 無傷で立ち上がる盗賊が機械鎧の相手を考察するが、どうやら本人曰く電脳族らしい。そして周囲を見て、だだっ広い部屋だな~と思っていると



「余所見とはいい度胸ね」

「そう見えるかな?」


 スッと、十メートルはある距離を瞬時に詰められ、突き出されたハルバードを軽く避け


「受けは苦手なんだ」


 籠手のような拳から放たれる腹パン。


 それが――


「へ?ちょっ!?」


 手応えがなく、急いで横からくる払いを受けて距離を取る。



「嘘だろ!?空間使いかよ!」

「そう言う事よ」


 しかし、跳んだ分の距離を縮められ、体勢が悪い状態で連撃を受け始めた。左右上下、突き、引っかけ。一切の距離を離せずにそれらを有利な間合いで打たれ続ける。


「くっ!?」

「ウザイね」


 急いで弾き受け流し反撃に転じるが、ギリギリで届かずに空ぶる殴打と手刀の数々。


「やべぇ、空間系は面倒だって!」

「だったら速く死になさい」


 攻撃のすべてに空間属性を纏っているので、一つでも対処を誤れば即削り落とされてお陀仏。そして妨害してなおやけに高い把握力と空間の伸縮。受けるだけでも一苦労である。



「お前を倒しても次々来るのか?外のドローンを操ってんのもお前か?お前、この装甲車と同化してるな!」

「わかったところでなによ」


 目の前にいるのは単なる分体。本体は実体のないデータそのもの。盗賊はハックが得意だが、流石に万全のそれそのものには敵わない。だから切り崩しにかかる。


「差がありすぎてな!だが勝つ!」

「無理よ。この程度に苦戦してるんだから」


 流石に慣れて来た盗賊は、反撃の手を強めた。それにより両者の動きが激しくなり、背後は行かなくても側面を取り始める。


「やっぱりな。処理能力に限界が来たか!」

「うるわいわね!」


 堅実だが単調な動きが顕わになり、苦しい雰囲気が滲み出る。演算機でブーストしているとはいえ、同格を三人も相手するには意識を割かずにはいられない。


「流石に!」

「チッ!」


 だが油断も隙も無い。見抜かれても完全に攻略された訳じゃない。その前に次の戦術を組み入れ、最適化された動きですぐに巻き返しを――



「くっ!?」

「無理か!」


 外の二人のせいで車体と演算が大きく揺れ、それにより逆転の目を許してしまう。


「いやできる!」

「舐めるな!」


 掠っただけとは言いえ、一度入ればこちらのものと言わんばかりに、盗賊は鋭い連撃を打ち込む。それにより切り崩された電脳族は、傷が増え十分も経たずに、凹み、削られ、関節をやられた挙句に、得意の空間を突き破られ殴り飛ばされる。



「ああ、私の自信作が……許さない!」

「この空間ごと!?」


 空間が滅茶苦茶にねじ曲がり、その隙間を光線が埋め尽くす。壁を壊しそこから即座に脱出するも、行く先々で空間による座標攻撃が連発された。


「逃げるなよ!」

「お前が本体か!」


 宙に浮いた半透明の幽霊のような白衣を着た長身の女が、気を荒立てて現れる。そこに向かって盗賊は衝撃を飛ばすが、空間に阻まれ、逆により洗礼された空間断絶を持って迎え撃たれた。


「あっぶね!」

「しぶとい奴!」


 避ける盗賊を確実に仕留めるために、空間を操作し爆縮を発生させまくり、通路が抉れるほどの大爆発が起きる。



「こっちの方が強いんだな!」

「効かないわよ!」


 視界が悪くなった一瞬の隙を突いて、ボロ付いた盗賊は拳を突き出す。しかし実体のない電脳族には通じない。


「ちくしょう!なんて回避力だ!」

「非実体舐めない事ね!」


 非実体対策の連撃を叩き込むが、すり抜けか流体のようにすべて避けられる。そのまま突き抜け、生成されたハルバードの一撃を紙一重で躱しながら、猛攻を続ける。


「これでもダメなのか!」

「くうっ!?ちょろちょろと!」


 移動の軌跡が見えない程の速度で床、壁、天井、空中などを蹴って縦横無尽に飛び回る攻撃に苦戦気味になる電脳族。両者、一瞬でも気を抜けば体が削り落とされかねない攻防の数々。



「さぁ!この装甲車を明け渡せ!」

「何をふざけた事を!」


 押され始めたのをきっかけに交渉に入る。無論相手も納得のいかない話なので突っぱねる。


「今なら殺しはないから!なんあら強いし何なら俺たちの仲間にならねぇか!?」

「なるかバカ!」


 強くハルバードを振るう。それは容易く次元を斬り裂くが、当たらなければ意味がない。なので接近戦も織り交ぜて、拳や蹴りによる打撃や掴みを組み込むが効果は限定的。


「俺はこのまま戦っていたいが、兄貴たちだって来るんだ!分が悪くなるのはそっちだよ!」

「たった三人で私を負かせるとでも!?」


 受けすり抜けとしながら攻防を繰り返すが、やはり技術者。非戦闘職である以上、スペックは申し分なくとも、経験の差は時間と共に彼女を苦しませる。


「強がるなよ!俺に押されてるくせに!」

「すぐに巻き返すにっ!?」


 体が大きく崩れる。侵食と妨害がついに許容量を超えた。ブーストが完全になくなり、それどころか自分を縛る鎖となって動きを鈍らせる。



「舐めるな!」


 能力を集中させる電脳族。あのブーストはあくまで装甲車の設備や並行処理に使っていた分だ。他二人の相手が出来なくなるが、目の前の敵にはなんら問題はない。そう言い聞かせて、負傷覚悟で勝負を決めにかかる。


「ぐうっ!?」

「くそっ!」


 今までにないほどの速度と攻撃力で放たれる凶悪無慈悲な連撃。それが強引に放たれる。しかし致命傷には至らない。一手足りない。


 そこに――


「終わりだな」

「早すぎるッ!?」


 兄が間に合い、横やりが電脳族を吹き飛ばす。防げはしたがダメージは避けられず、思考が揺らぐ。



「盗賊共が……」


 見えない牽制の嵐で空間が、バチバチ、バリバリと響きを上げる。そして次の瞬間には、両者の攻撃がぶつかり二対一での戦いが始まる。その戦いの激しさは今までの比ではなく、施設の事を気にかける余裕を失ったのか、余波が通路を傷つけていく。


「おいおいどうした、この程度か?」

「そうみたいだぜ兄ちゃん」


 拮抗しているように見えるが、両者の様子を見れば一目瞭然だ。得意分野は抑えられ、時折出す強引な攻撃以外はまともに届いておらず、今にも霧散しそうな体をギリギリで支えている。明らかに電脳族の方の消耗が激しい。



「てかそんなに暴れていいのか?」

「うるさい!黙れッ!」


床を砕き、壁をぶつ壊し、天井を斬り裂く。そうやって暴れ回り施設を破壊しながら突き進む。そしてついには外へと飛び出す。


「死にッ!?」


 脳天に銃弾が直撃し、頭部が霧散する。それを周囲に空乱斬をばら撒き、牽制しながら急いで復元しようとしたが


「動くな」

「くたばっとけ!」


 結界に拘束され、一瞬の隙に突き抜け爆散するような空撃をその身に受け、悔し気な思念と共に霧散するのだった。


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