第46話 特性違い
「ギ!?」
「ギガガッ!!」
トレント達がこちらに気付き、腕を向ける。腕に生えた無数の針のような葉。それがこちらを狙うように向きを変えた。
ジーク達から聞いた攻撃方法……あのトレントは葉を弾丸の様に発射する。威力が高く、コンクリートすら貫くほどだと言っていた。
だが、この
「ギガアアアアア!!」
トレント達が鋭利な葉を弾丸のように発射する。発射された無数の針。それが真っ直ぐ俺へと飛んで来る。
「絶対俺の陰から出るんじゃねぇぞ!!」
盾を構える。丸い盾に俺の鎧。それがミナセの強化魔法の光で青い光を放つ。
盾に伝わる衝撃。鎧に弾丸が当たるような感覚が響く。ミナセの魔法のおかげでダメージは受けていないが、通常なら装備を貫通するほどの衝撃──それを感じながら前へ。
弾丸の雨の中、徐々に。
徐々に前へ。
トレントまであと数メートルという所で一瞬弾丸が止んだ。
打ち尽くしたか。次までにクールタイムがあるはずだ。
「ジーク! ミナセ! 右の2体を頼む!」
俺の声に合わせるように背後から大地を蹴る音がする。それを感じた矢先、閃光のようにフロアを駆け抜ける銀色の光。それが2体のトレントの懐へと飛び込む。トレント達は突然の敵襲を迎撃することができず、無防備なままだった。
ジークが腰の愛剣を抜刀する。
「ふんっ!!」
「ギギァッ!?」
トレントに走る一閃。その直後、歩く樹木に斬撃が走り、深い傷を刻み付ける。
「ジーク危ない!」
ジークの背後から腕を薙ぎ払うもう一体のトレント。その攻撃をミナセがロッドで受け止めた。
「そのまま動くなよミナセ!」
「ちょっ!? 早く決めてよ!?」
ジークが回転しながらミナセの頭上へ飛び上がる。回転刃のように高速回転するジーク。その切先がもう一体のトレントを一閃し、斬り飛ばされたトレントの腕が宙を舞う。
「ギアアアアアァァァァッ!?」
「ミナセ! このまま仕留めるぞ!!」
「もう一体もまだ動いてる! 気を付けて!」
あっちのコンビネーションは完璧だな。俺らも行くか。
「アイル。火炎魔法いけるな?」
「大丈夫!
アイルが放った炎と共にトレントへと突撃する。
「行くぜえええええ!!!」
樹木のトレントは炎が弱点だ。燃えたトレントにショートソードの一撃を叩き込めば仕留められるはず。
「ギィアッ!?」
炎が直撃し、苦しみの声を上げるトレント。行ける。攻撃するなら今だ。
「うおおおおおお!!!」
トレントへ渾身の一撃を叩き込む。
が。
「ギギギィ!」
トレントは炎に当たっても
「なんで!? 炎が効いてないの!? ヨロイさん!!」
思考が集中し、周囲の動きが遅くなるような感覚になって行く。叫ぶアイル。迫るトレントの腕。
ちっ。想定外か。
咄嗟にローリングでトレントの薙ぎ払いを回避する。木の枝の集合体のような手のひら。その鋭利な切先が、大地に爪痕を残した。
「結構な威力だな」
「ギギァィィ!!」
トレントが再び腕を叩き付ける。
「舐めるなよ!!!」
その爪先か俺に当たる直前、左手の盾でその攻撃を防いだ。防御魔法によって無傷の盾。自分の攻撃が効かなったことでトレントが面食らったような表情を浮かべる。隙が生まれる。
「ギ!?」
無防備になったトレントへ向けて、再び渾身の一撃を叩き込む。
「うらあああああああああぁぁぁあっ!!!!」
木の体にショートソードがめり込む。そのまま全体重をかけて大地へと叩き付け、苦しむトレントの体を力任せに切断した。
「ギィアぁ、ああ、ァァァ……」
「……!?」
仕留めたのも束の間、背後に気配を感じた。
「ギィィィィイィィ!!!」
倒したトレントを蹴ってローリングする。もう一体のトレントが、俺がいた場所へと爪を突き刺した。
「ギィ!!」
連続で爪で斬撃を放つトレント。その攻撃をバックステップで回避する。ヘルムを掠める爪先。空気が切り裂かれたような音。相当な威力だなこれは。
「
アイルの声と共に冷気がトレントへ直撃した。アイルのヤツか、やるな。
「ギッ!?」
ビシリと固まるトレント。ヤツは身動きが取れず、節穴のような目を俺に向けた。その顔面を蹴り飛ばし、剣を振り被る。
「ウラああああぁぁぁぁ!!!」
トレントにショートソードを叩き付ける。凍り付いた樹木は、その一撃でガラスのように砕け散った。
「はぁ〜……よ、良かったぁ……」
杖を抱きしめてアイルがため息を吐く。よほど緊張していたのか、その頬には汗が伝っていた。
「助かったぜ。よく
「なんで火炎が効かなかったの?
杖でトレントをつつくアイル。彼女は恐る恐るという様子でモンスターの残骸を調べていた。
「ギガ」
「ギガガ」
戦闘に気付いたのか、奥からワラワラとトレント達か集まって来る。やっぱ4体だけで済むはず無いよな。
「今は新手を倒す方が先だ。行くぞアイル」
「分かったわ」
◇◇◇
〜ジークリード〜
──トレント達との戦闘を開始して15分後。
「ジーク! 追撃頼む!」
「ああ!」
鎧の視線の先にトレントが2体。壁を蹴ってトレントの元へ飛び込む。愛剣バルムンクを構えるとその刀身がバチバチと
「ギィィィィ!!」
「ギギギガアア!!」
両手を構えるトレント達。また遠距離攻撃をする気か。
だが、この距離なら──っ!!
「させんっ!!」
体が青く光り、閃光のスキルが発動する。俺の速度が100%上昇し、一瞬にして奴らの懐へと飛び込む。
「
バルムンクを横に薙ぎ払う。風と電撃が入り混じった斬撃が、2体のトレントを真っ二つに跳ね飛ばした。
「ギガアァ……アァ……ッ!?」
「ガァア……ア゛ッ」
倒れるトレント。そこから溢れるレベルポイントの光が俺のスマホへと吸収される……次から次へと新手が現れたが、これで最後か。
しかしコイツら……切った感触が……。
倒れているトレントを調べると、転がっていたトレント達の残骸が光となって消えてしまった。
「なんだこれは?」
以前ここに救出任務で入った時はこんな現象あっただろうか? あの時は救出対象者の所まで一気に駆け抜けたから全く気付かなかった。
……。
そう言えば、帰りは随分楽だった記憶がある。となればあの時も同じように消えていたのか。
「ジーク」
声に振り返ると、鎧達がこちらへと歩いて来ていた。
「トレントの残骸が消えた。お前の所も同じか?」
「ああ。こんな現象は見たことがない」
「やっぱそうか」
考え込む鎧。彼はスマホを操作すると、天王洲に声をかけた。
「アイル。周辺警戒してて貰えるか?」
「分かったわ。ミナセさんも手伝ってくれる?」
「いいよ〜」
天王洲とミナセが周囲を警戒する。それを横目に鎧はブツブツと独り言を呟いた。
「モンスターが消える……現象としてはゴーストタイプに似ている。だがトレントだぞ? しかも何も対策無く物理攻撃が効いた。反対に火炎魔法はさほど。なんだ? これは何を意味している?」
「言っていた生態系が変わったというヤツか?」
「そうなんだが……これほど特性が変わるなんて普通はありえない。警戒して進んだ方が良さそうだ」
特性の変化……か。渋谷は俺が想像していたよりも苦戦しそうだな。
―――――――――――
あとがき。
次回はダンジョンの外の視点でお送り致します。461さん達を心配するリレイラさん。彼女は渋谷ダンジョンのある事に気付いて……?
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