同居人は魔法使い 11

 そして、勢いで降魔さんを水族館に行こうと誘った俺。思い出作りをするという思考に全力で引っ張られてしまい、突飛押しで言ってしまったが、降魔さんはそれでも快く頷いてくれた。


 それから、水族館に行くことになった当日。俺は正直言って疲れている。


「とは言え、降魔さんを誘ったのは良いものの……」


 考えるだけで疲れがどっと押し寄せる。まだ、水族館に着いたばっかりだか気が重くなる。


 俺は視線を目の前に移す。その先に降魔さんが辺りをキョロキョロしながら歩いている。

 前には水族館が見える。平日だからか、賑わいはそこまでないが、ポツリポツリと小さな子を連れた家族も見かけた。


 中には俺と同じ年くらいの人たちの集団もいる。恐らくサボりか、今日学校が創立記念日とか俺と同じ様に自由登校期間か。考えられるのはそれくらいだな。


 彼らは、ちらちらと何故かこちらを見つめる。その理由が一体何なのかは一発で分かった。


「ヨミくん、水族館ってとっても大きいんだね」

「……降魔さん。はい……そうですね…」

「んん? どうしたんだい? そんなに疲れたような顔をして」

「いや……別に元気なんですがその……何で今日はなんですか?」

「えェ?」


 俺の言葉に降魔さんは首を傾げる。もう一度言おう、今日の降魔さんはのだ。

 そう、女性。つまり、俺の目の前にいるのは異性である。


 完全に油断してたっっ!!

 性別不詳いつものと男体化を見慣れているから、女体化できると言うことを忘れてた!!


「俺はてっきり、男の姿で来ると思ってたんだけど?!」

「たまには女の子になるのも良いかなァって」

「じゃあ、男の姿は?!」

「あれは、サービスだよ。ヨミくんは特別だから」


 おい。特別ってなんだよ。

 全く、いっつも訳分からねぇことを言っちゃってさー。


 降魔さんは相変わらず嬉しそうな顔をするも、俺にとって理解不能なことでちっとも喜べなかった。俺が呆れ気味になり、深々とため息を吐く。

 今日は一日長くなりそうだな。


 てか。


 俺は降魔さんをこっそり見つめる。


 降魔さん、女性姿でも美形だよなー。男性姿でも圧倒的な顔面偏差値の暴力を見せつけられたが、やっぱりか……。

 

 きめ細やかな白髪が肩下まで伸び、癖一つ見当たらない。

 背も若干低くなり、俺より少し高いくらいだ。畜生。

 そして、傷ひとつない色白の肌。鮮やかな黄緑色の瞳とゆるく巻かれた長い睫毛。どれもこれも俺には持ってないものだ。


 自分の地味な容姿と比べてしまい心の中でため息を吐く。 


 すると、周りからヒソヒソと何かが聞こえてくる。


「おい、見ろよ。すっげー美人」

「うわ本当だ。顔面偏差値やば。ハーバード大学並みの顔の良さだわ」

「モデルやってんのかなー? あれで何もしてなかったらマジでヤバい」

「なぁ、ちょっと声掛けてみようぜ」

「おいバカ、隣に男連れてるだろ」

「彼氏か〜? リア充爆発爆発」

「でもあいつ、あの美女と比べて平凡だな」


 いや全部聞こえてんだが??!!

 降魔さんがとっても美人なのは分かってる!

 で、でも!! 

 こ、これは別にで、デートってわけじゃねーし!!

 て言うか、俺が平々凡々で悪かったな!

 

「ヨミくん、眉間に皺がよってるよ。あと、少し顔が赤いね? 大丈夫かい?」

「……べ、別にそんなことないです……」


 取り敢えず早く中に入りたい……。

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