同居人は魔法使い 2

「ねぇ、ヨミくん」

「何」

「今日はどうだった? 学校、楽しかった?」

「普通」


 あまりその話題を話したくなく、簡潔に纏める。降魔さんはつまらなそうにするもすぐに元通りの馴れ馴れしい顔を浮かべる。


「相変わらず普通ばっかりだね」


 だって言えるわけないだろ。手紙なんてあまり書いたことないのに。よりによって、書く相手だぞ?


「本当のことだし」


 俺はオムライスを一口頬張る。心に留めて置いてる言葉まで飲み込み、完全に秘密になる。ちらりと降魔さんを見つめる。


 降魔さんはスプーンで掬ってオムライスを食べ、「卵の甘さも丁度良いな」と自画自賛している。


 やっぱりいつ見ても顔が綺麗だな。降魔さんは綺麗系で、男体化すると美男子、女体化すると美女になる。

 元々の身長も俺より高い。その癖、華奢で脚が長い。


 なんか負けた気がする。いや、種族が違う奴と比べても碌なことがない。


 気にするのは止めだ止め!


「ヨミくん、どうしたの。百面相なんかして」

「そんなことない」

「嘘。いつもの仏頂面が突然苦しげな顔になったり、首を振ったりしてる」

「知ってても言うなよ」

「あっ! ボク、分かった」

「な、何だよ……」


 俺の鼓動が早くなる。降魔さんは人の感情に敏感だ。すれ違う他人の考えていることもお見通しなのだから、俺の感情だって安易にバレる。

 ジロリと睨む降魔さんに肩を揺らす。黄緑色の瞳が俺を捕らえた。

 

「今日も絵を描いてたんでしョ」


「……そうだけど何」その発言で俺は正直内心ほっとした。


 自信満々気な顔をする降魔さん。俺はそんな降魔さんの姿を横目に見る。どうやらバレずに済んだらしい。


「今日は何を描いてたの?」

「ん」


 俺は椅子に置いてあるスケッチブックを降魔さんに見せる。そんなに凄いものを描いたわけではないのに、降魔さんは俺の絵を見て目を輝かせていた。


「綺麗な星空」

「もう返してもらってもいい?」

「えェ? もう少しだけ見せてよ。こんな綺麗なイラスト、貴重じゃないか」


 そう言って降魔さんはイラストを表にして俺に見せる。真っ白な紙に、鉛筆で塗りつぶされた夜空。それを背景に、大きな月と点々と並ぶ星。

 そこに箒に乗った人物。ステッキを回しながら周りに魔法をかけている。

 

 俺はイラストレーター志望だ。進路先も、画力を上げたくて美大に進学することになった。基本的に幻想的なものに惹かれるため、描くときは無意識に星や月と銀河系に偏ってしまう。


 今、降魔さんに見せている絵もそうだ。


 降魔さんを想像して描いたなんて口が裂けても言ってやんねー。


「ヨミくん。やっぱり君の想像力はとっても綺麗だよ。見ていて飽きないなァ」

「お世辞をどうも」

「本当だよォ? 全く、人間って素直に気持ちを受け入れないから、接するとき困るよ」


「まァ、ヨミくんは人一倍照れ屋だからね」降魔さんが揶揄うように笑う。照れ屋と言う単語にカチンときた俺は顔を顰めた。


「アンタ、いちいち五月蝿いんだけど」

「その反応は図星だねェ?」

「しつけー奴は嫌われるぞ」

「大丈夫。そう言っている内は、ヨミくんはボクの事が大好きってことが分かるから」

「意味わかんねー」

「そうだ! ヨミくん。今夜、空を散歩しよう」


 突然の降魔さんの提案に俺はうげっと眉を顰める。


「降魔さん、箒の運転は荒いから嫌だ」

「ええ〜? そんなことないよ。ボクはこう見えて魔法界では優秀なんだけど」

「絶対嘘」


 じゃなかったら、俺はなんでいつも酔うんだ。毎回高速で空を駆け回るんだから、目が回るのも理解できるだろ。


 え? 魔法使いにそんなことを言っても分かんないって? 俺は人間だぞ。


「箒持って窓の前で待ってるから。準備が終わったら教えてね」

「結局、俺に拒否権はなかった」


 ちくしょう。

 俺は悔しさを噛み締めながら、冷めかけのオムライスを一口、一口と食べ進めた。

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