バッファロー3分ブレイキング

うぃんこさん

破壊

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れには3分以内にやらなければならないことがあった。


それは、我々バッファローの群れに全てを破壊させようとした張本人を破壊してやる事だ。


何が全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れか。バッファローという生物がどのようなものか、日本列島という矮小な島国に住んでいる者の中でパッと説明出来る者はごく少数だろう。


貴様らは我々バッファローの事をちょっとデカい牛ぐらいのものだと思っているだろうが、概ね間違ってはいない。正確には水牛の事を指す。アメリカバイソン等への呼称にも用いられるが、とにかくバッファローとは牛だ。どこをどう取っても牛型の生命体だ。その突進力で全てを破壊するなどという事は本来なら出来ないはずだ。


恐らく我々バッファローの名を冠する者の中で最も強い個体はバッファローマンだ。ハリケーンミキサーやキン肉バスター返しなどを駆使する超人ではあるが、それでも所詮は1000万パワー。『全て』を破壊するには全然足りない。


バッファローマンが1000万だとしたら、群れのバッファロー1体あたりは多く見積もっても10パワーが積の山だろう。超人パワー1あたりが具体的にどの程度を指すのか分からないが、そういうことにしておいてくれ。


我ら群れの総数は1000万。単純計算では1億パワーあるかのように錯覚するだろうが、所詮1頭で10パワーであるが故に1000万パワーのハリケーンミキサーを喰らえば1000万頭全てが吹き飛ぶのが現実だ。出題者はバッファローの群れの事を何だと思っているのか。


その出題者こと春海水亭のデビュー作「致死率十割怪談」はKADOKAWAの紹介ページによると、読者の度肝を抜く勢いで怖さと笑いを届けるデビュー作。はてなインターネット文学賞、カクヨム「ご当地怪談」読者人気賞受賞作品と書き下ろし60枚を含む渾身の作品集!とあるが、これを当初「60枚」を「60作」と筆者は勘違いしていた。


もしそれが本当なら書き下ろし作品だけでたった192ページしかない単行本を60分割しなければならない。それが実現しなくて良かった。危うく小説ではなく詩集と勘違いするところだった。


致死率十割怪談というタイトルもそうだが、これはKADOKAWAの担当者によって決定されたと春海水亭本人が言っていた。本当は七割、八割ぐらいの致死率だというのにそう決められたとのことだ。


諸悪の根源は春海水亭ではない。こんな無茶を通した暗黒巨大企業KADOKAWAだ。春海水亭本人を破壊したとして、数多の作家を擁するKADOKAWAの尖兵が第二、第三のお題を出して来るに違いない。


だからこそ我々バッファローの群れは東京都千代田区富士見2丁目13番3号にあるKADOKAWA本社ビルを破壊せんと東京の街を行進している。このふざけたお題が出されるまで3分。それまでに何としてもKADOKAWA本社ビルを破壊し、企画そのものを止めなければならぬ。


先程も言ったが、我々は所詮バッファロー。道中を走る車に激突されただけでも歩みを止めてしまう事だろう。





我々は『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』である。そうあれかしとこの世に生を受けた我々は全てを破壊してここにやってきた。インドの現地民を押し除け、海を割り、行手を阻む車両や警察、道や建造物、果ては天敵の猟友会すらも全てその身で破壊してきた。


こんな事を言っている間に3分経過したのでは?と思うだろうが、我々は時間すらも破壊して進んでいる。そもそも小説という媒体はそのへんが便利で、時間が経過した描写を載せなければいくらでも時間を稼げるのだ。


どのようなメカニズムで、どのような物理法則が働き、どのように破壊されているのか?知った事ではない。そもそも1000万頭もの群れを維持する食糧は?知った事ではない。そういった常識や道理すら我々の群れは破壊する。


ならば一瞬すらもいらない。東京都千代田区富士見2丁目13番3号にあるKADOKAWA本社ビルなんてケチな範囲どころか、東京都……いや、日本列島……まだだ、この地球すらも破壊してみせよう。


あらゆる無理を破壊で通して道理すら破壊する。それが我々だ。KADOKAWAを破壊したところで別の出版社がお題を出すだろう。出版社を全て破壊したところで人間が生きている限り出版社は興るだろう。人間を全て破壊したところで生命の進化はいずれ人間を生み出すだろう。その根源である惑星を破壊したとしてこの宇宙は、法則は、また惑星を生み出すだろう。


その根源すら我々は破壊する。そうして全てが無くなる。我々が破壊するものは無くなる。その無すらも破壊する。


そうしてまた全てが始まっていく。それすらも壊し、始まり、壊し、始まり……歴史はこうして巡り廻る。破壊と再生。それこそがこの世の理だ。無を破壊すると有が生まれるというパラドックスに陥ってしまう。


我々に最早理性は無い。そうだと分かる機能すら破壊した。時間の概念すら破壊した今、この世は無限に破壊と再生を繰り返していく。


全てを破壊するというのはこういう事だ。破壊するだけでは本懐を遂げられぬ。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れという概念を生み出した春海水亭の、それを承認した暗黒巨大企業KADOKAWAの狙いはここにあった。


ならば覚えていろ人間どもよ。我々は全てを破壊するために我々を破壊する。だが、もしもまた46億年の果てに『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』を、いや、『全てを破壊しながら突き進む任意の何か』を生み出した時、私は帰って来る。何度でも、何度でもだ。我々は全てを破壊しながら突き進むしかないのだから。



そうして宇宙誕生から3分が経過した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る