第10話 グランディに洗脳されているんだ…っ! クロード視点

【クロード視点】


「アリシア……どうしてグランディの味方に……?」


 放課後、わたしはアリシアを学院の屋上に呼び出した。

 どうしても納得いかなかったからだ。


 (アリシアはグランディに操られているに違いない……)


 わたしのような「完璧な人間」の味方にならないことはあり得ない。

 絶対にあり得ない……

 だから、アリシアをグランディの「洗脳」から救い出せないといけない――


「クロード殿下……いったい何の用ですか? あたしはシドさんのところに行かないといけないのですが」


 アリシアはとても不満げな表情をしている。


「アリシア。どうしてキミはグランディのチームに入った……?」

「はあ……そのことですか……」


 やれやれと、アリシアはため息をついた。


「シドさんは、あたしをファルネーゼ様から助けてくれました。みんなが見て見ぬフリをする中で、シドさんだけがあたしを助けてくれたんです。自分の身も顧みずに……」

「そうか。アリシアは、恩返しのためにグランディに肩入れしているのだな?」

「ええ。恩返しもありますが……それ以上に――」


 アリシアは頬を赤く染める。


 (なんだ? この反応は……?)


「シドさんはすごく、すごく男性として魅力的なんです。かっこよくて仕方ないというか……」

「な……グランディが魅力的?!」


 グランディは、お世辞にも「イケメン」とは言えない。

 爵位だって、貴族の底辺の準男爵だ。

 それに、学院の成績も平凡そのものだ。

 クラスでも「空気」であり、ただの「モブ」にすぎないはず……


「ぐ、グランディのどこが魅力的なんだ……?」

「えっ? 殿下。わからないんですか?」


 驚いているわたしと対照的に、アリシアはきょとんした顔をする。

 まるで「当たり前のこと」を改めて聞かれたみたいに——


「シドさんは……ファルネーゼ様に対しても、恐れずに言い返しました。みんながファルネーゼ様を怖がって何も言えない中で、果敢に正しいことを言ったのです。その姿はまるで【勇者様】そのものです……っ!」

「グランディが【勇者】だと……?」


 わたしは思わず聞き返してしまう。

 勇者は、かつて魔王を倒したと言われる英雄。

 そして王族は、勇者の血を引いている。

 だから【勇者】と呼ばれるなら、グランディよりわたしがふさわしいはずなのに……っ!


「ええ。勇ましく敵と戦っていますから。今も、圧倒的に強い殿下と戦おうとしています。殿下は、シドさんと同じことができますか?」

「ぐぬぬ……。ファルネーゼのいじめのことなら、わたしも止めようとして——」

「しかし、実際にあたしを助けてくれたのは、殿下ではなくシドさんでした。それは紛れもない事実です」

「く……っ!」


 ファルネーゼを止めようとしたが、グランディに先を越されてしまったのだ。

 だからわたしだって、本当にいじめを止めようとしたのに……


「もうよろしいですか? あたしはシドさんと作戦を練らないといけないので——」


 アリシアはイラついた声を出す。


「ま、待ってくれ! 本当にグランディのチームでいいのか? クラスメイト全員を、敵に回すことになるんだぞ……」

「それが何か?」


 涼しい顔で言うアリシア。


「いや、だから……わたしはアリシアを助けられるんだ。今ならキミをわたしのチームに入れることも——」

「お断りします。わたしはずっと、シドさんと一緒にいます。シドさんと一緒に、必ず殿下に勝ちますから」


 アリシアはキッパリと、わたしの提案を断る。

 それどころか、勝利宣言までした。


「ま、待て……。わたしはアリシアを——」

「シドさんが待ってるので」


 アリシアは去って行った。


 (ダメだ……早くなんとかしないと……っ!)


 ……確信した。

 きっとグランディに、洗脳されているに違いない。

 アリシアがわたしの助けを拒むなど、どう考えてもおかしいからだ。


「アリシア……必ずキミを悪から助け出すからな!」




  

 

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