第3話 アリシアはわたしのものなのに……!

【クロード王子視点】


「アリシアはどこにいる……?」


 わたしはクロード・フォン・ルクスランド。

 ルクスランド王国の第1王子だ。

 昨日、わたしの婚約者であるファルネーゼが、アリシアをいじめたらしい……

 わたしは心配になって、アリシアを探している。

 さっきアリシアの寮の部屋を訪ねたが、いなかった。

 だから急いで教室へ行ったが――アリシアはいない。


「ソナタたち……アリシアはどこにいるか知っているか?」


 教室にいた学院生の女子に聞く。


「で、殿下……っ! お……おはようございますっ! アリシアさんは、シドさんを連れて教室を出ましたが?」

「シド……! シド・フォン・グランディと一緒に?」

「そうですが……」

「く……っ! 早く見つけないと……」


 わたしは教室を飛び出した。


 ……アリシアとは、4月のダンジョン攻略の授業で一緒だった。

 アリシアは平民だと蔑まれているが、膨大な魔力を持っている。

 わたしたちのクラスは、教師の指示を無視して、ダンジョンの深層の潜ってしまった。

 そこでA級の魔物、ミノタウロスと遭遇した。

 ここでわたしたちは死ぬ――

 まさに絶体絶命の状況だった。

 しかし……

 皆からバカにされていたアリシアが、聖属性魔法を使った。

 強力なミノタウロスが、一瞬で光の中に消えた……

 バカにされていたアリシアが、クラスメイトたちを救ったのだ。


 (なんて優しい女の子なんだ……)


 それからわたしは、アリシアに惹かれた。

 アリシアと話すと、心が軽くなった。

 アリシアの笑顔を見ると、王子としての重責を忘れられた。


「シド・フォン・グランディ。いったい何者なんだ……?」


 昨日、ファルネーゼにブチキレたことは知っている。 

 メイドからアリシアがファルネーゼにいじめられていると聞いて、わたしはダンスホールへ飛んで行った。


 (いくら我が婚約者でも、アリシアをいじめることは許せない……)


 わたしが、アリシアを助けようと思っていた。

 だが――グランディが先に、アリシアを助けた。

 今まで、同じクラスにいることさえ知らなかった。

 しかも爵位は準男爵だ。

 王族のわたしが、気に留めるような存在ではない。

 普通の王族なら、侯爵以下の貴族とまともに話をしない。


「わたしのアリシアをどうするつもりだ……?」


 ★


【シド視点】


「クロード王子……」


 屋上にクロードがやって来た。

 学院の屋上は、クロード王子がアリシアを呼び出して、城下町のデートに誘う場所。

 原作のシナリオでは、重要なイベントシーンがあるところだ。


 (実物はすげえイケメンだな……)


 男の俺でも、惚れ惚れするほどの美形男子。

 さらさらした金髪に、ブルーの大きな瞳。

 すらっと高い、細見の身体。

 爽やかを絵に描いたような存在だ……


 (で、アリシアを溺愛するんだよな)


「アリシア、大丈夫か……?」


 クロードは俺を遮るように、アリシアの前に立った。


「殿下……あたしなら大丈夫です」

「そうか。よかった」

「はい。シドさんに助けてもらいましたから」


 アリシアが俺の名前(シド)を出すと、クロードの表情が険しくなる。


「そうだな。グランディ、ソナタはよくやった。もうよいぞ。後はわたしが、アリシアを守るから――」


 クロードはアリシアの腰に手を回して、アリシアをぐっと引き寄せる。


「殿下、ありがとうございます……」


 アリシアはお礼を言いつつも、クロードの手からすり抜ける。

 それから俺の手を握って、


「シドさん、放課後、あたしの部屋で待ってますから――」

「ま、待って……放課後、アリシアの部屋で、グランディと……?!」


 クロードが驚く。


「シドさんに助けてもらいましたから、お礼にあたしの部屋に招こうと思いまして……」

「いや、しかし……グランディと2人きりで?」

「何か悪いですか? シドさんは紳士ですから大丈夫です」


 アリシアはまた、俺の手を握る。


(おいおい。攻略対象の前でこんなことしたら……)


「わ、悪くはないが……」

「では、問題ないですね。シドさん、すっごおおおく楽しみにしてます! じゃあね!」

「あ、アリシア……っ!」


 クロードの声を無視して、アリシアは走るように去って行った……


「グランディ、貴様……」


 クロードは俺を睨みつけて、


「お、覚えてろよ……っ! 必ず貴様から、わたしのアリシアを取り戻してやる……っ!」


 と、捨てセリフを吐いて、アリシアの後を追って行った。


 (なんだか面倒なことになってきたな……)




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