第4話 ユーゴに告白された俺とアオハルフラグ

 ジェスローのおかげで復活しかけてたのに……信じてた相手からのリアクションで台無しだ!

 いつも通り、というか昨日のあれこれをユーゴに話して今後の作戦の練り直しをしようとしてたのに――どうしてこうなった?


「前世も今も、俺はお前のことが好きだ」


 そんな会話から始まった衝撃の事実の連続。ただ、話をしていただけだったはずだ。

 って、こんな展開ばっかだな!? 遼一が、ユーゴが、こんな風に前世の時から俺のことを思ってくれていたなんて。

 とは言え正直な話、素直に喜べるかどうかと聞かれると微妙なところだった。


 だって、俺は今まで遼一やユーゴとそういう関係になるなんて、想像したことがなかったんだから。アルバートやブライアンとだってそうだ。俺は誰とも恋人になるつもりはなかった。

 何も考えていなかったからこそ、衝撃が大きい。


 俺は、動揺しつつも何とか返事をひねり出す。返事と言うにはあまりにも中途半端で、卑怯な言葉だった。自己嫌悪に陥っていると、ユーゴになった遼一は俺の思考の裏をついていく。

 いつの間に意表を突くのが得意になったんだろうか。


「――でも、安心していいよ。絶対にお前、俺の事が一番だって思えるようになるから」


 ヤバすぎる一撃。一瞬にして、自己嫌悪している自分なんて吹き飛ばされていった。驚いたせいなのか分かんないけど、いつの間にか涙を流していた。


「それに、ゲームの主人公は俺だ。お前は高難易度の隠し攻略キャラ。お前は俺に、ただ攻略されればいいのさ」

「…………うわぁ、メンタル強すぎ」

「俺は、他の攻略キャラを攻略するつもりはない。お前が良いんだ。安心して俺に攻略されなよ」


 主人公補正なんて、なかったんじゃないのか? 俺は初めて、攻略されていることを自覚した。


「お前のそれ逆鱗、俺の為に使わせてみせるから」

「……っ!」


 逆鱗が埋め込まれている位置はだいたいが鎖骨である。思わず俺は反射的に鎖骨を押さえてしまっていた。別に今害が及ぼされるとは思ってないけど、念の為だ。うん。


「可愛いよ、俺のヒューイ」

「ま、まだお前のじゃないからっ!」


 苦し紛れの反論だって、ユーゴは分かっていた。遼一が俺に向けていた笑顔を見せてくる。そうして俺はやっと気づく。俺は、彼からそういう目をずっと向けられていたんだって。




 で、現在。俺はユーゴと前日のことなんてなかったかのように過ごしていた。どういうことぉ!?

 俺からあの件について話し始めれば良いんだろうか? いわゆる「好きだって言うけど、俺のどこが好きなの?」みたいな。


「……なぁ」

「どうした? ヒューイ」

「…………何でもない」


 俺は、どうすればいい。どういう反応をするのが正解なんだ。戸惑っている俺のことを見て、楽しんでるんじゃないだろうな?

 いや、遼一はそんな意地悪しなかったし、ユーゴになってからもそんなことはなかった……と、思う。俺が都合よく忘れているわけじゃなければ。


「警戒しないでくれるか? そういう風にされるのは俺も不本意なんだけど」

「あ、ごめん」


 そうだよな、うん。っていうか、これって青春時代に味わうべき「告白した(された)相手と過ごす独特な気まずさ」ってやつじゃないか!?

 俺は腐男子まっしぐらで女子とのあれこれとかなくて、ひたすらゲーム作りに打ち込んでたし、大学生活も似たようなものだったし、就職してからも同じような生活してて……あれ? もしかして俺……何も成長、してない?


「ユーゴ」

「何?」

「正直に言って良い?」

「そう言われるとドキッとするけど、何?」


 多分、俺の方がドキドキしてる。こんなことを告白するなんて、普通に恥ずかしいから。


「俺、今まで恋人とかいなかったし、恋とかもしたこと、ないんだ。更に言えば、告白されたのだって今世になってからだ」

「……だろうな。うん、想像はしてた」

「はっ!?」


 正直に話したのに、 それだけ? 俺が呆然としていると、ユーゴは微笑んだ。


「だって、前世で食べに行った時とかに色々話をしてくれただろ。そこから容易に分かるさ。今はまあ、周囲のガードがすごいから……お察し、って感じ」

「周囲のガード」


 前世のは、言われてみればそうだった。今世は……うん。確かにアルバートとかブライアンとか、ジェスローもそうだったな。過保護っていうか、なんていうか。それに、あの高貴なグループと一緒に――あ、俺も高貴な生まれだったわ――過ごしていたら、交際関係も絞られてくる。

 さらに、逆鱗持ちだっていうところが俺の恋愛ハードルを上げていた。


「そういえばさ、俺がヒューイを好きになった理由とか、気にならないのか?」

「えっ!? あ、いや……そのぉ……」


 気にならないのかと聞かれれば、気になるに決まってる! でも、そういうのを聞いてしまったら後戻りできない。既にもう後戻りはできないとこまで来ている気がするけど。


「前世で俺、両親が離婚してるって話はしただろう?」


 勝手に話し続けるんかい!!

 ツッコミ欲がうずうずとしてしまったけど、頷いて耐えた。多分、ユーゴの計算通りってやつだ。

 ユーゴは俺の律儀な部分を見抜いているんだろう。小さな笑みを俺に送り、口を開く。


「ちょうど両親が離婚するっていう時に、高臣と出会ったんだ」

「もしかして、大昔に会ったことがあるっていう……?」

「そうそれ」


 やべえ、年季が入ってる……。しかも、当時の俺が何を言ったのか、本当に覚えてない。


「当時小学生だった高臣、他人の幸せな姿を見て“幸せのおすそ分けをしてもらってる”って言ったんだ」

「あー…………」


 何となく思い出したかも。腐男子生活をエンジョイしていたら、話しかけられた記憶が蘇る。


「それ、俺がやんわりと腐男子の思考を……」

「だろうね。大人になったら分かったよ。でも、当時の俺はその言葉に救われたんだ」


 俺のアレと、遼一の両親の離婚、何が関係するんだ? 分からなすぎて、俺は彼の次の言葉を待った。


「真似したんだよ。言葉通りにな。お前の考えていたとは違うけど、俺は両親の幸せを祈り続け、彼らの幸せを見届けたんだ」

「……」


 両親の離婚、それは子供にとっては年齢関わらず重大な事件だ。俺は、それを乗り越える糧になったというのか。


「その時に俺は、お前に約束したんだ」

「……俺が、お前を幸せにしてやるよ」


 思い出した。あの時の俺は、腐男子活動をごまかすことしか考えてなかった。なのに、そんな俺の言葉を聞いて「俺が幸せにしてやる」とか言ってくるものだから、変な人だなと思ったんだった。

 それが、目の前にいる男だったとは。


「今も、その気持ちは変わらない」


 呆然とする俺の唇に、キスがひとつ。

 俺のしょうもない言葉で救われてしまった男が、今度は俺を幸せにする為に現れた。俺の中で、何かのパズルがカチリとはまった気がした。

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