第5話 王子様がパートナーに求めるものが無欲すぎる

 俺の“お願い”を聞く形でアルバートがユーゴと話をしてくれることになった。そうして、良い感じの雰囲気になったアルバートとユーゴが…………何も進展しない、だと!? いや、少しは進展した……かな。ただし、俺越しに。

 俺抜きでお願いします。俺は外野で二人の姿が見たいからァ……。


「ユーゴは面白いことを言う」

「そう? ありがとうアルバート」


 ここでは敬語抜きで良いと言ったアルバートに、ユーゴは本当に敬語抜きで話し始めた。ショーンとは違う反応に、アルバートは気を良くしたらしい。

 これ、いい感じなんじゃないか? 

 ――俺が間に挟まっていなければ。


「ところで、アルバートがパートナーに求めるものは何なの?」


 おっ、良い質問するじゃないか。さすが主人公。ワクワクしながらアルバートを見つめれば、なぜか彼は俺の方をちらりと見た。いや、俺のことは気にせずユーゴに集中してくれよ。

 すぐに視線を外した彼はどこか遠くを見つめ――よしよし、真剣に考えてるな? いい傾向だ――ユーゴに視線を戻す。


「私は、自分の立場を理解し、能力を最大限に活用しようとする人間が好ましいと考えている」

「……」


 うっわぁ……ガチで、条件だけを提示した……。俺は、自分の感情よりも好ましい条件を口にするアルバートにドン引きすると同時に、もっと欲張ってほしいと文句を言いたくなった。

 アルバートはある意味無欲だ。俺は、そこがちょっと心配である。ほら、ユーゴもビックリしてるじゃないか。

 仕方ない。少しだけ助けてやろう。


「アル、もう少しさ、人格的な方とか……少なくとも、王配の条件じゃないものもあるだろう? パートナーとはこういう関係を築きたいとか、こういう人がパートナーだったら心が安らぐとか、さぁ?」

「……ふむ」

「そもそもだ! 王配として最低限の条件がマッチしてるから、ここにいるんだ。今更そんな最低条件を口にされたって、ユーゴも困るに決まってるだろ」


 ちょっとヒートアップしちゃって言い過ぎたかな。隣に座るユーゴが俺を小さく揺らす。


「ヒューイ、そこまで言わなくて良いんじゃないか?」


 まぁ、そうなんだけどさ。ちゃんと言わないとアルバートは分からないのだから仕方ない。


「いや、ヒューイの言う通りだ。私が悪い」

「アルバート?」


 アルバートは小さく笑い、口を開く。


「私は、正しくないことをしてしまっている時に、ちゃんと正しくないと指摘してくれるパートナーがほしい。私が王として相応しい人間でいられるよう、支えてくれる人が良い。

 条件じみた話だが、国を運営するパートナーでもあるのだから、この国を自分の子供のように真剣に考えてくれる人が良いのだ」


 ああ、アルバートはどこまでも王の器なんだ。俺は寂しさを覚えた。


「あとは、そうだな。一緒に支え合えたら良いな。小さなことでも面白おかしく過ごせたら良い。

 一緒にいて、楽しければ、きっと幸せだと思う」


 そう言ってアルバートは小さく笑った。


 そうだった。アルバートは小さな幸せを大切にするタイプだった。子供の時の記憶が甦る。王になることだけを考え、潰れそうになっていたアルバート。

 努力家すぎて、真面目すぎて、精神的に限界がきているように見えた。

 だから、俺は言ったんだ。

『国は子供。国民は兄弟。国王は一家の父。つまり、アルは大家族のお父さんになるだけだ。あんまり悩みすぎない方が良いぜ。

 因みに俺は次期公爵だから、アルの弟だな! どうだ、頼もしいだろ?』

 って。

 そしたら、アルバートは笑ったんだ。「いや、国が子供なのに国民が兄弟なのはなんか変だ」ってな。でも、それからのアルバートは、少し吹っ切れたみたいだった。

 だから、あの時の言葉は思い出すと少し恥ずかしいけど、間違った言葉じゃないって思っている。


「……だってさ。ユーゴ」

「うん。ありがとう。アルバートが無欲ですごい人だってことは分かった」

「これくらい、当然だと思うが」


 ユーゴが慈愛に満ちた顔でアルバートを見つめる。なんか、いい感じじゃないか? これで、俺が真ん中にさえいなければ、完璧なんだけどなぁ。


「俺はそう思わないけど。アルバートが当然だと思うのは、きっと国王になる重責に囚われたままだから、なんだろうな」

「……重責に囚われたまま、か」


 アルバートの声に、苦いものが混ざる。彼が無欲なのは、そういう理由もあるのかもしれない。でも、それを指摘したユーゴはすごい。

 さすがは主人公。元々のゲーム通りに進行していないけど、やっぱり他の子とはひと味違う。


「俺は、一国の国王には幸せでいてほしいけどな。不幸な王様が運営する国が、幸せな国になるとは思えないから」

「なるほど。そういう視点もあるか」


 ユーゴは頷いた。ミルクチョコレート色の髪がさらりと揺れる。聡明そうなアーモンドアイがアルバートをじっと見つめた。

 それに、と次の言葉を発したのはユーゴが先だった。


「上の人間がしっかりしていることは大前提だけど。やっぱり機嫌の良い人間の下で動きたいとは思うよ。真面目なのは素晴らしいことなんだけどさ、親しみやすさもほしいなって思わない?」


 ユーゴ、俺が思っているよりも語り続ける。アルバートは彼の言葉を否定することなく、静かに聞き続けている。


「最初の話に戻っちゃうけど。俺は、王様になる重圧だとか、責任の重さとか、分からない。でも、王様の下で動く人間の気持ちは分かる。

 俺は、王様には幸せでいてほしい。国のシンボルとして、輝いていてほしい。だから、パートナー選びは真剣にやってほしい。

 パートナーは、喜びも、悲しみも、何もかも共有する相手だから」


 ユーゴはそう語り、アルバートに向けて笑いかける。アルバートは、そんなユーゴを見つめて瞬きを繰り返していた。これはもしや、アルユーへの第一歩なのでは?

 俺はドキドキと胸を高鳴らせながら、二人の会話を見守る。

 “ザ・王子様”なアルバート――きっとこの表情からすると攻め様モードだ――が、ふいに柔らかな笑みを見せた。うん、かっこいい。

 そんな彼が見つめる先はユーゴ。ユーゴはアルバートのことをを見るような目で――は? いや、そうじゃないだろ!?


「ちゃんと、時間がかかっても、大切な相手を見極めた方が良いよ」

「……そうだな。肝に銘じておこう」


 親子の会話みたいになってないか? これ……。

 あれー???

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