縁語り
夏目英
第一章
1
地平線へ飛び立つカモメの群れ、ゆっくりと進む漁船にだんだんと沈みゆく夕日。
透はそんな景色を見ながらいつもの家路を一人で歩いていた。
すると突然、内ポケットにあるスマートフォンの振動を感じた。長く感じる振動はおそらく電話だろう。
と、予想しつつ、透は渋々内ポケットからスマートフォンを取り出した。
着信の相手は養父の
(心配しすぎだよ…)
透は不満げな顔を浮かべながら、即座に着信を切った。
「透!」
通話を消した直後に声を急にかけられ、後ろを振り返ると、自分より一回り背の高い美麗な少年がいた。
その少年は自分と同じ孤児で一緒に涼風と共に暮らしている
真はふと、スマートフォンを持っている自分に対して、むっとした表情をしながら
「また涼さんから? 全く、涼さんて過激な心配性だよね、僕がいるのに…」
気軽に養父の涼風を涼さんと呼ぶ真を咎めようと思ったが、無駄だと思い、すぐにその思考を止めた。
「本当だよ、即座に着信を切ったよ」
と、透は呆れた声をしながら返答すると、ふと学生ズボンの右ポケットが変に膨らみがあったので手を突っ込むと、くしゃくしゃの紙があった。
透は急に涼風に買い物を頼まれていた事を思い出した。
「買い出し?」
と、真に問われ、透は頷けば、
「うるさい人の買い出しを朝頼まれた事を急に思い出したよ」
と答えた。
真は苦笑をして、一緒に行こうよと提案してきた。
透は迷惑じゃないのかなと不安そうな顔を浮かべていたら、真が急に肩を並べ、
「そんな顔しないでよ、僕は何があっても猫である君を守る子だから!」
と、真は自信ありげにそう言い始めた。
猫と子といえば、敵対同士である猫と鼠である、干支の物語を大半の人は思い浮かぶだろう。そう、僕は干支に加われなかった猫で真は十二支の子にあたる。
代々、真の一族は猫をお守りする役目で真の右手のひらには子、透の右手の甲には猫という痣のような印がある。
だが、何から守られているのか、透には認識がない。というより、幼い記憶が全くと言って無いし、なぜ自分が孤児になったのか分からずじまいである。
「どうしたの? 早くいかなきゃ涼さんが余計に心配するよ?」
と、真に急かされ、透ははっとして我に返れば、足早に真と一緒に買い出しの為に行きつけのスーパーへ行った。
とある小高い丘の上で一人の青年が町を眺めながら、佇んでいた。
青年の後ろにはこの世には居なさそうな異形な獰猛そうな獣達が無数いて、鋭い目をぎらつかせていた。
「目的は猫と子。探しに行け」
そう青年は獣達に命令すると、獣達は影に変化すれば、散り散りに消え去った。
行きつけのスーパーにて透はカートを引くまことについて行くように歩いていた。
必要な物を一緒に品定めをしながら買い物かごに入れていた。夕食時だからか、そこそこ混んでいた。どうもこういう場所は落ち着かない。
でも、真がいるから幾分かは落ち着く。
「透?」
と、真に声をかけられて目線を真に向けながら少し首を傾げていたら、
「ぼんやりしていたから大丈夫かなと思って」
「あ、ごめん。人混みが落ち着かなくて…ついぼんやりしてしまったよ」
そう素直に言うと、真は苦笑をし、そかと言えば、会計を済ませて品物を袋に入れれば、外に出た。
外はもう夜で辺りは暗かった。買い物袋は真が率先して持っていた。
最初は遠慮していた透だったが、真の説得に根負けをし、真に任せることにした。
すると、近くで人だかりができていた。
何だろうと思いながら、真と一緒に人だかりの方へ行くと、救急隊員と警察らしき人がいた。
「誰がこんなことを」
「酷すぎる」
人々が憐れみの言葉を次々とこぼして言っていたので、透は更に気になり、その先をもう少し見ようと身を乗り出そうとしたら、
「行こう、透。早く帰らないと、涼さんが更に心配するよ」
急に真がそう言いながら、その先を遮るように袋を持っていない逆の手で透を引っ張った。
透は気になってもやもやとしていたが、真の言う通り時間的に涼風がかなり心配するだろうという時間帯だと瞬時に判断すれば、真と一緒に足早に家へと帰った。
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