いっしょに行こう
広之新
プロローグ
あれは去年の夏だった。俺はお盆休みに実家に帰省した。だが帰ってきたからといって何も面白いことがあるわけもない。田舎の空気を吸って虫の鳴く音を聞くだけだ。
ここは普段は静かな村だ。だが8月15日の夜だけは違う。村を上げての盆踊りが行われるのだ。集会所の広場に櫓が組まれ、昼頃から太鼓を「ドーン! ドーン!」と打ち鳴らしている。それが夕方になれば江州音頭の渋い歌声が村中に響き渡るのだ。それは毎年、同じだった。
今年も昼間から太鼓の音が聞こえている。子供の頃は楽しみにしていたが、最近では参加していない。俺の年代の若者は都会に出て行ってお盆でも帰ってこない。そこに行っても知っている顔がいないからだ。
「今年で最後みたいよ。盆踊り。若い人もいないし、年寄りばかりじゃできなくなったのよ」
太鼓の音を聞きながら母はさびしそうに言った。確かに村の人の数は減っているし、高齢化している。もう来年から盆踊りがないと聞かされると何だか名残惜しくなって見に行きたくなった。
「ちょっと俺、行ってくるよ」
そう言って家を飛び出した。辺りはもうすでに暗くなっている。この日は先祖の霊を送るために道のあちこちにお燈明があげられていた。俺はその灯りの中、広場まで歩いて行った。
(確か、信二と渡、美穂もいたかな。4人で踊っていたっけ・・・)
急に子供の頃の楽しい思い出が巡ってきた。その3人の幼馴染とは高校までいっしょで、特に仲が良かった。だが彼らは上京してしまってしばらく帰ってきていない。
「あいつら、どうしているかな?」
俺は3人に会いたかった。もしかしたら俺はそのためにこの退屈な村に帰郷しているのかもしれない。
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