第一五話 初任務の前に訓練をしよう


「……見事なまでに、何もない空間だな」


 さりとて、ただの空き地というわけではないだろう。


 それを証するように、エリザが空間の中心へと移動し、なんらかの魔法を発動した。


 右手人差し指に嵌めた指輪が煌めくと同時に床が変形し、台座が迫り上がってきた。


「この魔導装置を操作することで、《眷属》共の幻影を召喚し」

「それを相手に実戦経験を積んでいく、と」

「左様。今回の幻影召喚はスリー・ウェーブ。《眷属》共の群れを三度に渡って殲滅したならクリア、といった設定にさせていただくが、よろしいか?」

「あぁ。かまわない」

「ちなみにね! この訓練のベストスコア保持者、あたしだから!」


 得意げな顔をして胸を張るソフィア。

 どたぷんっと揺れる爆乳。

 実に素晴らしい。


「さて……実戦訓練へと移る前に一つ、説明しておきたいことがある」


 エリザが台座型の装置を操る。

 彼女の指輪が煌めいてからすぐ、俺の目前に幻影の板が出現した。


「これは?」

「あたし達のパラメーターね。《戦乙女ヴァルキリー》の身体的、あるいは魔力的な能力を数値化して表示したもので……まぁ、実際に確認すればわかるんじゃないかしら」


 ソフィアに言われた通り、俺は板に記載された内容へ目を通した。



 名称:ソフィア・ノーデンス

 生命力:五七〇〇 魔力総量:三五〇〇

 筋力:三〇〇〇 魔攻:二六〇〇

 頑強性:四八〇〇 魔防:五〇〇〇

 敏捷:三〇〇〇


 名称:エリザ・グノーシス

 生命力:二二〇〇 魔力総量:一九〇〇

 筋力:一七〇〇 魔攻:二〇〇〇

 頑強性:一五〇〇 魔防:一四〇〇

 敏捷:二三〇〇



 ……全体的に、ソフィアの方がエリザよりも二回り以上強い。


 それ自体は幾度となく耳にしていたため、特に思うところはなかったのだが。


「《戦乙女ヴァルキリー》全体の平均値は?」

「およそ二〇〇~三〇〇といったところですな」

「つまり! あたし達は平均の一〇倍強いってわけよ!」


 どんなもんだいとばかりに胸を張るソフィア。


 そのおっぱいと戦力に対し、称賛の思いを抱く一方で……俺は危機感を覚えていた。


「平均がそんなにも低いということは」

「えぇ。原初プロトタイプであるソフィアをもとに、当時の軍部は量産型 《戦乙女ヴァルキリー》を第七世代まで開発したのですが……終盤においては、性能よりも物量を優先し始めましてな。ゆえに第一世代以降、順々に性能が落ち込んでいるのです」


 俺は腕を組みつつ問うた。


「……戦力として扱えるのは?」

「およそ第四世代までが限界かと」

「……戦闘員の、総数は?」

「この拠点のみであれば、三〇〇人以下。他の拠点を含めても、万に届くかどうか」

「……物量的にはこちらが圧倒的に不利、か」

「そこに加えて、質に関しても厳しい評価を下さざるを得ませんな。現状、こちらの数を増員することは出来ぬため、せめて質を上げたいところだが…………む?」


 自らのパラメーターを確認してからすぐ、エリザの尻尾がまるでクエスチョンマークを形成するかのように折れ曲がった。


「どうした?」

「……いや、気のせいでしょう」


 首を横に振ってから、エリザは今し方の続きを話し始めた。


「パラメーターは滅多に変動しない。そのうえ世代毎に限界値が定められている。天井知らずに上がっていくのは、ソフィアだけだ」


 ゆえにこそ彼女は最強の《戦乙女ヴァルキリー》であり、俺と並んで、この戦争を勝利に導くための重要な鍵なのだと、エリザはそのように述べた。


「まだ説明していない内容は多々あるが……ここからは実戦を交えながら話そう」


 エリザが台座を操作した瞬間、数多くの《眷属》達が出現。


「まずは我等の基礎性能を把握していただく。ゆえに用いるのは体術と魔法のみとしよう」

「りょ~かい。ちゃんと見てなさいよ、オズっ!」


 こちらの応答を待つことなく、二人は勢いよく地面を蹴った。


 まずソフィアが先んじて、一体の《眷属》へと肉薄し、


「りゃあっ!」


 鋼の体躯へ、拳を叩き込む。


 常人であればむしろ、殴った方が大ダメージを受けるところだが……

 さすがは最強の《戦乙女ヴァルキリー》といったところか。

 打撃で《眷属》の頭を大きく凹ませ、仕留めてみせた。


 一方でエリザはというと、


ッ!」


 手刀を繰り出すが……ソフィアとは違って、その一撃で沈めることは出来なかった。


 敵方の返礼を回避しつつ、エリザは口を開く。


「一般的な《戦乙女ヴァルキリー》が奴等に対抗するには、魔導の力が必須となる」


 言うや否や、彼女の指輪が発光。

 次の瞬間、無数の雷撃が放たれた。


「……ほう」


 ただの一撃で以て、全ての《眷属》を討ち取ったエリザ。

 その威力は感嘆に値するものだった。


「我々の魔法力は人間のそれを大きく上回るものだが……通用するのは雑魚だけだ」


 エリザの発言が終了すると同時に、新たな敵が現れた。


 三体。

 いずれも大型の肉食獣を思わせるような外見。


 これに対しエリザは再び雷撃を放ってみせるが、


「見ての通り、まるで通用しない。こういった相手には切り札を出す必要がある」

「ふふんっ! あたしのとっておきっ! ちゃんと見てなさいよっ!」


 待ってましたとばかりに右手を天へと掲げるソフィア。

 そして。


「来なさい! グラン=ギニョルッ!」


 そのとき、彼女の周辺に闇色のオーラが生じた。


 それが掲げられた右手の先と、腰に当てた左腕へ集中し……得物を形作る。


 長剣と盾。

 以前、金属ムカデと戦った際、彼女が用いていた武装だ。


「さっきのエリザみたくっ! 一撃で消し飛ばしてあげるっ!」


 腰を落とし、漆黒の長剣を構えるソフィア。

 指輪が強い煌めきを放つと同時に、刀身が闇色のオーラに覆われ……一閃。


 虚空を斬り裂く刃。

 その軌跡に沿うように、黒き波動が生じた。


 それは飛翔する斬撃となって敵方へと殺到。


 宣言通り、一撃で以て三体の《眷属》を葬ってみせた。


「どぉ~よっ! これがあたしの《霊装》、グラン=ギニョル! すっごいでしょっ!」

「《霊装》……取り戻した記憶の中にもない、初めて聞く単語だな」


 こちらの疑問にエリザが受け答えた。


「うむ。説明させていただこう。オズ殿が封印されて以降、ただ一人、貴殿に匹敵するほどの逸材が現れた。名はマリア・プロヴィデンス。貴殿とは知己の間柄だったというが」

「……記憶に、ないな」

「そうか。奴は貴殿を兄と呼んでいたのだが……まぁ、さておき。マリアの手によって創り出された我々の専用武器。それこそが《霊装》だ。これは簡単に言ってしまえば」

「補助装置、だな」


 小さく頷くエリザ。


「然り。これと指輪を組み合わせることで、魔法力が何十倍にも向上する。その結果、我々は上位の《眷属》をも討伐出来るようになった」


戦乙女ヴァルキリー》の基礎性能と、専用武器である《霊装》。


 これらの確認を以て、彼女等に備わった戦力のおおよそは把握出来た……

 と、そんな考えを否定するように。


「さて。次なる相手は、わたしが単独で倒してみせよう」

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