第7話 運動は効率的に
「其方らの働きは誠に大義であった。これからも王国のため尽くしてほしい」
王都に戻って早々、私を含めた冒険者の面々は王宮にて国王から謝礼を賜った。命懸けでドラゴンや魔物の討伐をした私たちに贈られたのは金貨一枚ずつ。まさに『金一封』の名に恥じぬケチ加減である。
国王をはじめ、王宮は大した事ではないと踏んでいるようだが、これは前代未聞の事案であり、早急に対策を練らなければ後々大損害をもたらす可能性がある。
「陛下は皆様にとても感謝しております」
彼は国王の右腕と名高い、パーシバル・ノストリルズワース。陛下の側近でありながら、軍師として恐れられている。戦場でなければただの優しいオジ様と言った雰囲気だが。
「この度の褒美、有難く頂戴いたします。私の名はガブリエレ・ロレンツォでございます」
「おお、貴殿があの鋼鉄の守護者であったか」
なんだコイツ。媚を売って軍にでも入る気なのか?
「ひとつ私共から進言いたします。
今起こっている魔物やドラゴンの襲来は今までに起こり得なかった事象であります。次やそのまた次に襲撃があった場合、騎士や兵士、冒険者では歯が立たない可能性もあります」
言っちゃった――。
「其方は軍備を強化せよと申すか?」
「それだけではありません。民の避難や砦の拡大などできることは全てやるべきだと」
これ反逆罪とかにならないよね?
私は関係ない、私は関係ない。
「これは実際にドラゴンと合間見えた、我々全員の意見です!」
いやぁ、何も言ってないんですけど。
「ふむ、本来なら冒険者ごときが……と言うところだが、今回に限っては許そう。しかし、これは深く政治的な問題になりかねんのだ」
「流石にさっきのはダメですよ」
「皆、言いたいことがあるようだったのでな。俺が代わりに言ってやった」
「いやいや……」
しかしどうも引っかかる。パーシバル殿が言った「深く政治的な問題」とは一体どういう事なのだろうか。ドラゴンや魔物の襲来はどこかの国が手を引いているとでも言うのか。
「この件はあまり深入りしない方が良さそうですよ」
「……そのようだな」
王宮から出てすぐの路地裏、陽が落ちる前だというのに黒いローブを身に纏った刺客が四人、こちらに短刀を向けて道を塞いでいる。
「こんな所で殺し合えば王宮から丸見えだぞ?」
「構わぬよ。いずれにせよお前たちには消えてもらわねばならん」
対人戦は得意じゃないのだけれど、この状況じゃそうも言っていられないよな。
そうだ、婆さんからの宿題を試してみるか。
◇◇◇◇◇
村を出る前の晩のこと。
「明日で王都に戻るのだったな」
「はい。おかげさまでこのスキルを使いこなせるようにならました」
「何を言っとるんじゃ。お前さんはスキルの一端しか見えておらん」
ベイル婆さんはそう言うと、積み上げられた本の中から強引に一冊取り出して見せた。
それは彼の大賢者、スカーレット著の『スキルの開花について』という本だった。魔導書というには薄すぎる気もするが、外表紙も綺麗に整っていて読みやすい。
「このページに書かれているのは――」
保持者の感情や経験がスキルの発展に深く関わることが分かった。特に強い感情や愛が、新たなスキルを生み出すきっかけとなる。また、戦闘を通じてスキルは進化し、新たな段階へと発展するだろう。
「なかなか大雑把ですね」
「そうじゃろう。だが、こうとも汲み取れる。『どんなスキルにも進化の猶予はあるのだ』と」
それからベイル婆さんは私に宿題を出した。
「スキルの新しい可能性は、戦闘で見出すのが手っ取り早い。特に対人戦をこなすことが近道だろう」
◇◇◇◇◇
別に強制じゃないし、やらなくてもバレないけど、相手から来てくれるのなら都合がいい。
「私が一人でやるよ」
「お、おい……」
「なんかムカつくじゃん?」
「いやあまり派手に暴れ過ぎるなよ」
もっと心配しろよ。女の子だぞ!!
「この小娘がっ!」
ドラゴンとの戦闘では、大きな力をイメージしていたからカロリーの消費も大きかった。カロリー計算を上手くやれば戦いも楽になるはず。
今までの暴力的なカロリー量ではなく、拳に軽く乗せる程度の計算で――。
「グワァッ!!」
「あれ、おかしいな……」
刺客さんの腹部から向こう側の景色がよく見える。これはカロリー量が多かった証拠。殺さない程度に、丁寧に。
「グハッ!」
「お、こんな感じか」
なんとなくだがコツが掴めた。人によって力の差があるにしても、威力の微調整は必要だな。
「なんかアイツ、実験してね?」
「もういいですよ。あとは任せます」
「いや、もう全員死んでるよ……」
前言撤回。コツを掴むまでの道のりは結構長そうだ。
「徴兵依頼お疲れ様でした」
「帰りしな盗賊に襲われてな。コイツが全員ぶっ殺しちゃったんだけど」
いや、もっと言い方あるでしょ。まるで私が殺人鬼みたいじゃないか。
「それは災難でしたね。指名手配犯であれば賞金がありますので、ちょっと確認してきますね」
そんな都合良く「指名手配犯でしたぁ!」なんて期待はしていないが、コイツらがどういう意図で誰に雇われたのか聞けないのが残念だ。
私のせいだけど。
「全員、指名手配犯でしたぁ!」
「マジかよ……」
「はい! しかもその中の一人は、一〇年前の王宮襲撃の首謀者で重要指名手配犯だったのです!」
そして私は金貨八百枚という多額の臨時収入を得て、ギルドを後にした。ガブリエレが酒を奢れとうるさかったが、なんとか振り切って宿へ帰還した。
それにしても王宮襲撃か。ドラゴンの件といい面倒ごとが増えそうな予感だ。
「でも、明日はメシ爆食しよっと」
カロリー不足は女の敵!
つってな。
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