第3話 生活魔法 3月9日改稿

 やや遡り──



「いつもありがとう」



「別に良いけど、ちゃんと生活魔法くらい使えるようにしなさい」



「あ、あはは……はい……」



 ファイは近所に住むリトと、村の洗濯場に来ていた。近くに川が通っているものの、危険の伴うは、村民の立ち入りは禁止となっている。



 代わりに、洗濯場とは名ばかりの公共広場にて、桶や属性魔法の要となる<コア>が常備されていた。



「一児の母とは思えないくらい、情けないわ」



「うぅ。そこまで言わなくてもいいじゃない……」



 赤毛の長髪を三つ編みに纏め、後頭部で縛る──リトは水色の小さなコアを手に取る。集中し、息を吐いた。



 すると、コアが淡い光を放ち、水が溢れ出す。



「わぁお。ありがとう!!」



 水を桶で受け取り、ファイは子供のように笑う。そんな彼女に、リトは嘆息した。



 さっそく、服やタオルを木製の洗濯板に擦り付けて洗っていく。



 春先になり、太陽が心地良く彼女らを照らす。鳥の囁きに耳を傾け、手を動かしていく。



「ご機嫌ね、ファイ」



 ファイは、自然と鼻歌を歌ってしまっていた。思わず顔を赤くし、微笑む。



「そんなに子供って良いものかしら。あまり魅力を感じないのよね……」



 リトが言うと、聞き捨てならないとばかりにファイが彼女に詰め寄る。桶同士がぶつかって、水が跳ねた。



「良いものだよ!! 可愛いし、癒されるし、もう最強よ!!」



「ふーん……でもあんたの子供、可愛いくないじゃん。不貞腐れたような眼付きで、何考えてるか分からないし」



「な、なななんてこと言うの!?」



「ごめんごめん。ちょっと不気味だっただけ……はぁイケメンとの間になら、子供を作りたいって思うのかな」



「リト!? 今日なんか失礼……! リーベルさんだって、その──良い感じよ?」



「夫はへなちょこで力仕事も出来やしない。ちょっと土魔法が得意ってだけよ」



 リトの夫──リーベルは、土魔法を得意とし「土壌を耕し」「木を掘り起こす」等、この村の整備や拡大を任されている。



「いいじゃない、素敵よ。私は魔法一切使えないもの」



「あんたさ。なんか変だよね」



「ええっ!? 急に何──っ!?」



 リトは誤魔化すように眼を逸らす。魔法が使えない人間を、彼女は初めて見たのだ。



 本来、魔法の使い方は生まれ付き、身体が知っている。それなのに、彼女は使えない。



 だが、鈍臭い彼女なら有り得るかも知れない。そう思えるから不思議だった。



「別に何でもないよ──ねぇそれよりさ、あんたと夫の馴れ初めを知りたいのだけど」



「だからそれは、小さい頃からって──」



「なーんか、嘘臭いのよねぇ。白髪の髪で、青い瞳は、あの<裏切りの姫>と同じ。わざわざ王都から離れた場所で、子を生むなんて──その目的は、血を絶やさないことにある……ってね」



 雄弁に語るリトに、ファイは首を傾ける。



「リトが何を言っているのか、良く分からないのだけど……」



「最近王都で流行りの陰謀論とか、都市伝説ってやつよ。鈍いわね──つまり貴方は、<ネンファ姫>の子孫なのよ!」



「──えっ!?」



 余程自信があったのか、リトは得意気だった。



 すると、男性の声が背後でする。

 


「リト、失礼だよ。幾ら鈍感なファイさんでも、この村でそういった詮索はご法度なんだ。狭いコミュニティだからね」



 リーベルは、楽しそうに会話する妻の悪い癖を感じとって、直ぐ傍まで来ていた。妻とは違い背丈が低く、体付きも何処か頼りないが、堂々とした物言いをする。



「なんだい。女同士の話に首突っ込んでんじゃないよ」



「あれ? ていうか、私。さっきから馬鹿にされてたりする……?」



「リト、僕たちもあまり人のことは言えない。そうだろ」



「ふんっ」



 リトは顔を膨れさせて、外方を向いた。リーベルは嘆息すると、ファイに先程の非礼を詫びる。



「すいません、ファイさん」



「いえ、私は別に……そ、それより、人のことは言えないって──何のこと?」



「え?」



 リーベルは思わず苦笑する。



「まぁあれです。盗賊だったんです、リトは。あっ、殺人はしていないですからね」



「と、盗賊……!? かっこいい」



「はぁ……そう思うのはファイさんくらいです。誰にも言わないで下さいよ」



「は、はい……」



 出会いについても気になるところだが、丁度洗濯を終え、彼らとはここで別れることになった。夕飯の支度もしなければならない。



 自宅に帰り、茶を沸かそうとする。



 火を付ける際、本来赤色のコアを用いる。だが、ファイは魔法が使えない為、発火用の粉末と金属を使って火を起こしている。



「魔法かぁ。やっぱり使えないといけないよね……キャビーちゃんと練習すればいっか。うん、そうしよう!」



 我が子との交流を思いついたファイは、ニヤついた顔でやかんを眺め続けた。



 充分に沸騰すれば、冷ます為に外へ出しておく。そこでふと、屋根を見た。何かが動いた気がしたのだ。



 じっと屋根を見つめていると、また何かが動いた。蛇のような細くて、ややふっくらした肌色──人間の脚だった。



 ファイの顔が青ざめる。



 思い返せば、我が子を家で見ていない。



「キャビーちゃんっ!!??」




『作者メモ』


 ネンファ姫とか、裏切りの姫とか、後々説明が入るので、スルーで大丈夫です。

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