第6話:うどん定食

視点:長月林檎


キーンコーンカーンコーーン。

「昼飯だーーっ!」


 ぼくはそう言って食堂の中へと入っていった。

 学校は昼飯も提供されるなんて。しかもたっぷり、豪華にだ!

 昨日まで雑草を食べていたのが嘘のようだ。なんなら二日に一食だったのに。


 そんなことを考えながら、ぼくは小さな機械のまえに立った。

 先生によると、どうやらこの小さな機械から、食券と言う物が出てくるらしい。

 ぼくは『うどん定食』と書かれたボタンを押した。

 すると紙切れがにゅっと出てきた。ちょっとびっくりした。


「なんだこれ!?紙切れじゃねぇか!?これ食うのか?」


 ぼくは出てきた紙切れをまじまじと見つめた。

 紙切れには、『うどん定食』と書かれている。ぼくがさっき押したボタンと同じ文字だ。


「こんな紙切れじゃ腹はふくれねぇし……どうすんだ?はっ!まさかこれ味があんのか!?」


 どうすればいいか考えていた時、トン、トンと、背後からいきなり肩を叩かれた。


「な、なんだ!?」

「あぁ、驚かせて申し訳無いのだ。先生に『食券の使い方伝え忘れてたから教えといてくれませんか? 』って言われたから教えようと思ってきたのだ」


 そうやって声をかけてくれたのは、黄色い髪色の女の子だった。髪は二つにくくっていて、赤いカーディガンを羽織っている。丈は短めだ。


「おぉ!ジャストタイミングってやつだ!全く意味が分からなくてよぉ。紙切れが出てきたんだ。キカイのコショウってやつか!? 」

「いや、それは食券って言うのだ」

「あぁ、これが食券なのか! 」

「そうなのだ。それで、この食券を奥のカウンターに居るおばちゃんに渡すのだ」

「なんでだ? 」

「まぁ見てるのだ」


 そう言って、二つ結びの女の子はカウンターへと歩いていった。


「はい、おばちゃん。うどん定食お願いなのだ」

「はいよ!うどん定食だね!時雨ちゃん、いつもよくたべるから、おばちゃんまで嬉しくなっちゃう! 」

「ありがとうなのだ! 」


 二つ結びの女の子は、ぼくと同じく『うどん定食』とかかれた紙を、カウンターのおばちゃんに渡した。

 気さくに話しているから、女の子とこのおばちゃんは知り合いなのだろうか。


「おや?そこの男の子は……見たことないねぇ。転校生かい? 」

「えっ!?あ、そうなのだ」

「うつってるのだ」


 ぼくはいきなり話を振られて驚いてしまった。


「そうかい!じゃあ僕、お名前は? 」

「長月林檎っていいます!」

「長月林檎。へぇー、いい名前だねぇ!」

「ありがとうございます!!!」

「元気のいい子だねぇ!はい、うどん定食だよ!」

「ありがとうございます!!」


 なるほど。この食券をおばちゃんに渡すと、その紙に書いているものと交換出来るのか。

 このおばちゃんは何者なのだろうか。


「注文の仕方はわかったのだ? 」

「あぁ!バッチリだ!ありがとう!あ、そういえば名前を聞いていなかった。名前は?」

「私か?私の名前は甘夏時雨あまなつしぐれなのだ!」

「分かった!ありがとう甘夏時雨さん!」

「時雨でいいのだ!じゃあ、私はうどん定食食べてくるのだ!」


 そういって時雨さんは、何故か六人向けの大テーブルに一人で座った。


「あれ?まだ友達がくるのか?」

「いや?今日はお姉ちゃんは委員会でいないし、奏は課題が終わってないからひとりなのだ」

「え?ならなんで六人向けの大テーブルに?」

「あぁ、それは……」


ドン!

 時雨さんの目の前に置かれたうどんは、見るからに三人分はある大きなお皿にぎっしりと入っていた。

 ……しかもそれが十個ほどある!?


「はい、どうぞ。時雨ちゃん。沢山食べてね!」

「ありがとうなのだ!いただきますなのだ!」


 時雨さんは、元気よくそういって大きなうどんをむしゃむしゃと食べ始めた。

 ふと、時雨さんの後ろから、くろいかげのようなものが二つ現れた。

 犬の頭のような形をしていて、そのかげも同時にうどんを食べていた。

 ぼくは驚いて時雨さんの後ろを見てみると、なんとそのかげは時雨のしっぽのようだった。


 犬の頭のような形をしたかげが、しっぽのように生えてくる……そして自由に動かせる……

 どうやら時雨さんは、ケルベロスの混種のようだ。


 そしてうどんの方はというと、なんと時雨さんは二十分とたたないうちに完食してしまった。

 汁まで残さず綺麗に食べている。ぼくよりも小さな体のどこに入るのだろうか。


「ごちそうさまなのだ!ありがとうなのだ!」


 そう言って時雨さんは教室に向かって走っていった。

 凄まじい食べっぷりを見て、ぼくも食べようとうどんの麺を掴もうとした。

 つるつるとすべってなかなか掴むことができない。

 はしの使い方は教えて貰っていたが、それにしても難しい。

 棒二本で食材を掴めだなんて無理だ。


 ぼくは仕方なく、お皿を口につけてたべた。

 うまい。ものすごくうまい。

 時雨さんがあれだけ食べるのも分かる。それくらいうまい。

 ……いやまぁ、流石にあれだけは入らないが。


「よし!ご馳走様でした!」


 ぼくはうどん定食を食べ切り、『返却口へんきゃくぐち』と書かれた棚にお皿をもどした。

 漢字は読めなかったが、その横にひらがなが書いてあったから助かった。親切だ。


「……次あそこ行こうよ!」「まだ時間あるから……」「早く食べてよー!間に合わない!」


 周りからたくさんの声が聞こえる。まぁ、ご飯を食べに全生徒が集まるんだから当然だ。

 しかし、なんだか時間の話題が多い気がする。そう思って時計を見てみた。

 たしか小麦先生が、昼休みは時計の針が八の所までだと言っていた。今は五の所だ。

 ……まぁもう少しあるだろ!しらんけど。


 そう思って、ぼくは図書室という、本がたくさんあるらしいところへ行ってみることにした。

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